虹のような人、佐野元春へ
シニカルで冷笑的な時代状況のなかに突如として現れた佐野元春の音楽は
いわば荒れ果ててしまった土地に雨を降らせるような 朽ちてしまった水路に
再び清らかな水を撒いていくような 汚れた街のなかに花束を投げ込んでいく
ような響きがあった そんな意味で彼は向こうみずな冒険者であり 時代を見つ
める先行ランナーであり 夢を取り戻そうとする理想主義者だった そして何より
も佐野が作る歌の主人公たちは 生き活きと動き回ろうとしていた
ことさら大上段に空疎なメッセージを掲げるのではなく 佐野はある種の切迫感
とともに歌の主人公たちに生命を与えていった 一見平易な言葉の連なりが
激しく叩き付けるようなビートに導かれて突然キラキラと輝き始める ロック音楽
が生み出すそんな虹のような時間の共有こそが 佐野元春を体験するというこ
とに他ならなかった それは言葉を換えれば佐野が一人の聞き手として60年代
から70年代にかけてロックから授かってきた青年期の蓄積でもあっただろう
だからこそ窓から見える景色をどんどん塗り替えていくような感動を 彼は自分
の音楽で恩返ししようとしたのではないだろうか 本人に確かめたわけではないが
もし今度彼に会ったなら ぼくは一度訊ねてみようと思っている
近年はとくに若い世代から佐野への惜しみない賞賛が集まっている
それもこれも佐野が悲観論者にならず 歴史の傍観者にもならず ときとして
既存のシステムと激しく闘いながら 自主独立の精神と友へと差し伸べる手を忘
れずに生き抜いてきたことへの限りない共振が 佐野の名前を呼んでいったのだ
そう 支流がやがて大河へと辿り着くように
小尾 隆(佐野元春『ソウルボーイへの伝言』のライナーノーツより)
「ぼくは二つの優れたバンドと巡り会えることが出来ました 最初はザ・ハートランド
彼らとは新宿の中華料理店で出会いました 次はホーボー・キング・バンド 彼らとは
レコーディング・スタジオで最初に会いました ぼくの30年の活動のなかで真っ先に
思い浮かぶのはその光景です」
佐野”the Lion "元春
(今年3月 恵比寿リキッドルームで行われた”アンジェリーナの日”の記者会見にて)
by obinborn | 2010-10-03 11:03 | rock'n roll | Comments(4)
ありがとうございます 先輩にそう言って頂けるとぼくも勇気が湧いてきます
狭山のフェスの帰りに確か大泉学園の駅でオレカンさんを見つけ声を掛け
させていただいた時 奥様ともどもぼくをきちんと受け止めてくれたことを
まるで昨日のように思い起こします いつもありがとうございます
ライナーを何度も読み返しながら
「ダウンタウンボーイ」や「YOUNGBLOODS」と
同じように小尾さんのライナーは作品の一部でした
初めて納得のいくベスト盤が聴けた嬉しさがこみ上げてきます
小尾さん、素敵なライナーを書いてくれてありがとうございます。
言えども妥協しないどころかクオリティの高いものを作ろうという佐野さんの
意気込みは制作段階からバシバシとこちらにも伝わってきましたので ぼくも
それに見合うようなレベルを目指し 自分なりに頑張ってみました
「作品の一部でした」なんておっしゃって頂けるのは もの書きのはしくれに
とってはほんと嬉しいです
肝心のアルバムのほうも こうした流れで聞くと慣れ親しんできた曲たちが
また新たな表情を伴いながら響き合っているようであり そこが新鮮でもあ
ります アルバムの最後を最近の二つの名曲で締めているのも逞しさの
理由かもしれませんね