佐野元春の新作『月と専制君主』のために
拍手が巻き起こったという
それは30年間音楽を続けてきた仲間たちへの感謝でもあっただろう
プロトゥール一台でこと足りるような現在の音楽環境のなか
佐野と仲間たちは”ワン、トゥー、スリー”の合図で始まる録音現場を
とことん重視し きちんとした音像を拾えるエンジニアを立てた
今やこうした試み自体が時代の趨勢からは外れてしまうとしても
佐野が彼の最初のバンドであるザ・ハートランドを
『がんばれ、ベアーズ』のようなチームにしたい! と語っていたことは
よく知られるところだ そうした気持ちのあり方のようなものは
歳月を経て鍛錬を重ねた今でも まったく変わっていないことに
驚かされる
手振り口ぶりによって以心伝心となるまで重ねられる会話
それを音へと具体化していくノウハウ
音楽には時間が必要だ
ぐっと重心が低い演奏に生まれ変わった「ヤングブラッズ」(註1)に
聞き手たちは鋼のような賢明を以前にも増して感じることだろう
より孤独感が際立つ「日曜の朝の憂鬱」に
聞き手たちはのっぴきならない荒野のことを思うことだろう
時は流れていく きみがいなくても
2011年の冬に
小尾 隆
註1 「ヤングブラッズ」
UKの白人ソウル・デュオ、スタイル・カウンシルから引用されたのでは?
と論議を呼んだ曲でもある 佐野自身後年「曲の操縦を誤ってしまった このことで
もし信頼を裏切ってしまったなら申し訳ない」 と率直に語っている
しかし筆者がいつも不思議に思うのは そういう皮相をあげつらう人に限って
佐野がどういう言葉で何を歌おうとしているかに関心を向けないことなのだ
ムーンライダーズがミルトン・ナッシュメントを引用すればそれは気の利いた遊びと
して理解されるのに 佐野の場合がそうならないところに生真面目な表現者としての
彼の苦悩が透けて見える
果たしてビートルズがゼロの地平からまったくオリジナルな音楽を創造しましたか?
ヒロイックな神話ではなく むしろロック音楽の継承とは相互影響のなかで育まれて
きたのでは? というのが筆者の揺るぎなき見解である
何度でも言おう 音楽はディレッタントのための玩具ではない、と
限定盤として3,000枚プレスされたLPレコード アナログが平行販売されたのは
97年の『Barn』以来だろうか
カッティング・エンジニアにはロン・マクマスターが起用され 彫りが深く臨場感
ある音像に貢献した 7分に及ぶラテン・グルーヴへと生まれ変わった「ヤング
ブラッズ」が圧巻! 同曲のホーンアレンジがスライ「エヴリディ・ピープル」
に触発された旨も記載されている
by obinborn | 2011-01-29 18:05 | rock'n roll | Comments(0)