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1月29日

佐々木譲『笑う警官』(07年 ハルキ文庫)を読了 今年3冊め

企業の経営者が最も恐れるのが正直者であるように
警察という組織の上層部を怯えさせるのは密告者である
警察ではチクる者、コクる者のことを”うたう”と表現するそうだが
警察内での権力と抵抗勢力との闘いを描いた傑作がこれだ

権力は内側から腐るとはよく言われることだが ヤクザとの裏取り引き
裏金作り OBへのおもねりなどは警察の現実問題でもある
それを”うたった”者、報道機関に売った者は組織で生き残っていけない
という苦い皮肉は サラリーマンの世界とまったく同じでもあろう(だから
隠蔽体質が生まれる)

佐々木は北海道警察を舞台にした魑魅魍魎を多く手掛けてきた作家
私も彼の著作はここ数年ランダムに愛読しているが アンチ権力への
射程がすざまじい それはとりもなおさず弱い者、もたざる者への優しさ
でもある むろん娯楽小説なのでデフォルメされた部分もあるのだろうが
警察で最初に洗脳されるのは徹底的な反共主義(つまり労働組合と
共産党は悪であるというイズム)だという描写なども実にリアルである

苦い結末が冒頭に提示されるという反則技を用いつつも アンチ体制派が
次第に集結してトップに迫る後半はまさに総力戦を呈していてスリル満点だ
ただキャリア組トップの警視部長に自首を迫りながらも 直前に彼が自殺
してしまうという展開は(もう少し彼の独白が聞きたかったので)もったいな
いような気がした

いずれにしても自殺者は 悪から一人 善からも一人
まっとうな人生を送ることが一番難しいのかもしれない

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「本物の婦人警官が婦人警官の制服を着て石岡をいたぶっている光景
その時石岡は二つの手錠で鉄パイプ製の寝台に拘束されているのだ
石岡は東京大学法学部に進んで警視庁を目指した時 そんな場面を密かに
期待したのだろうか 警視庁に入るならいつかそんな夢が叶うかもしれないと」
(本書より)

by obinborn | 2011-01-29 17:06 | 文学 | Comments(0)  

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