ロング・インタヴュー、中村まり(上巻)

 初めて中村まりのライヴに出掛けたのは09年の10月のことだった。その日は
ずっと小雨が降っていたのを今でもよく覚えている。新しい才能との出会いは、
どうやらそうした記憶とともに刻まれていくものらしい。それ以来ぼくは出来る
限り彼女が歌う会場へと足を運んだ。冬の夜もあれば夏の宵もあった。強い風が
吹き荒れる日もあれば、日溜まりの余塵に包まれた夕べもあった。そうした季節
のうねりとともに「A Brand New Day」や「Still In The Sun」といった歌が次第に
羽根を広げていく姿を確かめることは、少なからず価値ある体験だった。
 
 昨年の夏に彼女がロンサム・ストリングスとともにレコーディングに入ったと
いう話は耳にしていたが、その優れた成果が今年6月に発売された彼らの共演作
『Folklore Session』だ。そしてこのアルバムを携えた彼らは、6月と7月に亘
る二度のツアーへと旅立ち、各地で好評を博した。またフジ・ロックにも参加し、
フィールド・オブ・ヘヴンで行われた演奏は素晴らしいものになったと伝え聞く。

 ツアーを終えたばかりの8月の夕べ、中村まりと久しぶりに会った。


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☆楽しかったツアー

ーー西日本ツアーに三度目となるフジ・ロックへのご出演、お疲れ様でし
た。ツアーの手応えはいかがでしたか。

 
                                        「ありがとうございます。今回は特に、お客さんが温かく迎えてくれて、それが追い風になったというか、背中を押して貰ったような部分がすごく大きかったです。どの会場もほぼ満員御礼だったのが嬉しかったですし、前回の6月のツアーの時よりも、『Folklore Session』のリリースからおよそ2ヶ月弱の間があったぶん、CDを聞き込んでからライヴに来てくださった方が増えた中でのライヴが出来た気もしました。フジ・ロックに関しては、たとえ私たちのファンではない方々でも、フジロッカー独特の、皆で盛り上げよう!という雰囲気があるんですね。それがしっかりとこちらにも伝わってきましたので、とても楽しかったです」 
                                        ーーよくツアーは後半になればなるほど音が固まり、各自のプレイも奔放
になると言われますが、演奏面ではどうだったのでしょうか。

                                                           「自分はやはり当事者ですからどうしても客観的に見れない部分はあるの
ですが、だんだん演奏が引き締まってきたという感想は頂きましたし、自
分でも今回のツアーは最初に演奏した時(5月29日 西麻布の音楽実験室
・新世界)よりも次第に良くなっていったと感じています。勿論その時々で反省点もいろいろあるのですが、やはり後半はどんどんノリが良くなってきたのではないでしょうか」
                                        ーーアルバム『Folklore Session』に関して中村さんはよくMCで『構想5
年、録音5日』とおっしゃっていましたね。実際に音楽が完成するまでに
は様々な紆余曲折があったと思うのですが、最初はどういう青写真を描い
ていらっしゃったのですか。

                                                  「まず自分としては5年前にはロンサム・ストリングスの方々と演奏するとどういう風になるのか、具体的には思い描けていなかったですね。でもライヴの場で初めてご一緒したときにとてもうまくいったという感触があって、その後も何度かライヴを重ねるうちに次第に共演の形が見えてきたという感じです。なので青写真ということに関しては、そうしたライヴでの共演がまずあり、その延長線上にレコーディングの話が持ち上がりましたので、ゆっくり時間をかけて具体的な話し合いへと進んで行った感じです。選曲に関しては色々と思い描いていましたが、それ以外の部分では実際にスタジオに入って演奏してみてから分かる部分が大きいだろうと思っていました」

 
 
ーーアルバムのプロデューサーでもあるギタリストの桜井芳樹さんの貢献
も大きかったと思います。桜井さんはどういった指揮を執られていったの
でしょうか。

                                                 「桜井さんは曲ごとのメンバーの立ち位置なり音像なりを明確に把握しているので、桜井さんが譜面を起こし、それを私たちが演奏しながらレコーディングを進めていくという意味で、まさにプロデューサーという存在でした。曲の解釈など、あいまいになっている部分の意味づけを桜井さんがしたことで曲の輪郭がはっきりしたことは大きかったですね。今回は私がヴォーカリストとして第三者的に加わったこともあって、私自身もそれなりに意見を言わせて頂いたので、恐らく普段のロンサム・ストリングスとは違ったアプローチになった部分もありました。でもやはり出来上がった作品をみると、ロンサム・ストリングス独特の世界観が色濃く反映されていると思えるので、そのあたりは特に桜井さんのプロデュースの力を感じますね。テイクの取捨選択については、おのずと満場一致じゃないですけれど、九割方はこの演奏が良かった、というメンバー全員の意見の一致を見ることが出来ました。それぞれに演奏のピークというものがあるのですが、それが何度目かで全体的なベストテイクに一致するような流れに持っていけたのが良かったかと思います。ただ申し訳なかったなと思うのは、皆さんが私のヴォーカルの出来を最優先してくださったので、せっかく演奏面でいいソロ・プレイがあったとしても没になってしまったテイクもありました。でも全体的な方向性としては、定まっていたように思えます。(昨年の7月に伊豆スタジオで行われた)5日間のレコーディングは、曲数も多かったので決して時間に余裕があったわけではありませんが、予定していたスケジュールでほぼ余すことなくやり切った形で順調に終えることが出来ました」  
 
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の絡みが素晴らしいですね。ギター・パートの役割分担は自然に決まって
いったのですか。

                                                                                          「この曲にしても2、3年前に下北沢のleteが主催したコンサートで桜井さんと一緒に演奏した時のものがベースになっているんですね。なので今回もテクニカルな面で弱冠合わせた部分を除けば、お互いのギターに関して口出しするようなことはなかったですね。阿吽の呼吸じゃないですけれど、互いがそれぞれ好きなスタイルを持ち寄った、自然な演奏になっていると思います」




☆☆歌の根っ子を掴みたい

ーー今回の『Folklore Session』は多くの曲がフォークやブルーズ、ある
いはマウンテン・チューンやトラディショナル・ナンバーなど、古い時代
に北アメリカで生まれた歌のカヴァーですね。そういう意味ではソングラ
イターとしての中村まりというよりは”語り部”としての中村さんを押し出
したような内容になっています。なかには1920年代に歌われた「The Cuckoo Bird」のような曲も入っています。そうした古い時代の曲を現代という時代に歌うことに関して、どう思われていますか。


                                                               「今おっしゃって頂いたように、まさに語り部なのかもしれません。私が歌手として一番大事にしているのは、その曲の根っ子を掴むことなんです。歌が生まれた時代と今自分が置かれている環境が違うからといって、考え過ぎるのは良くないと思います。そうですね、何と言えばいいのかはよく解らないですし、無責任な言い方になってしまうかもしれませんが、自分のオリジナル曲に比べると、会ったこともない他人が作った古い曲を歌う時、私は背負うものが遙かに少ないわけです。オリジナルを歌う時はやはり自分なりにその曲を作った背景を表現しようとして、一つの方向に向かって繊細な表現を追い求めていこうとするのですが、カヴァー曲の場合は歌詞の中に表現されている感情に対して遠慮がなくなり、表現にも選択肢の幅が生まれるように思えます。もう少し客観的に自分の歌を見つめているもう一人の自分がいて、より歌うという行為そのものに集中できることがおもしろいところです。それに、より過去のトラディショナルの録音になるほど、現代の歌唱法では当たり前となっている個人的な感情移入を前提とした歌い方と比べて、歌い手がその歌の物語を客観的に眺めつつ、フラットに歌っている印象を受けるんですよね。もしかしたらそうした立ち位置にも近いのかもしれません。これは私の勝手な解釈かもしれませんが、歌詞をすべて把握出来なくても、極論で言えば歌詞が付いていなかったとしても、曲のメロディ自体にその歌の喜怒哀楽があって、その歌の気配や物語を察することが出来るように思えます。そしてたとえ時代は違っても、人間の喜怒哀楽というのは基本的にはそれほど変わらないものだとしたら、曲が古いとか新しいとかではなく、歌の根っ子やエッセンスを掴むことは可能だと思っていますし、掴みたいと常に思っていますね。
ちなみに『このヴァージョンが最高!』とか、『えっ?このヴァージョンも知らないの?』とか、『この歌はどこの国で何年に生まれてこうやって伝播していったんだ!』といった話になってくると、歌がすごく窮屈になってしまうと思うんです。だから考え過ぎず、
背負わず、ですかね。私の場合はいろいろなヴァージョンを知らなくても、自分が知らないことに対しては、わりとあっけらかんとしています(笑)」



ーー音楽はお勉強ではないですからね(笑)。例えば『Folklore Session』
にも収録されている「Fishing Blues」で言うと、ぼくは最初に聞いたジェ
フ・マルダーとエイモス・ギャレットのカヴァーが一番体に馴染んでいる
んです。むろん向学のために原作者であるヘンリー・トーマスの歌もレコ
ードで探して聞いたんですが、録音が古過ぎるせいかいまひとつピンと来
ないんですね(笑)。だからぼくはそれぞれの世代の体験したものが一番
リアルなものだと思っています。


「そうですね。それが本来の意味での伝承歌なのかもしれません」

(中巻に続く)
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by obinborn | 2011-09-16 11:52 | インタヴュー取材 | Comments(0)  

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