ロング・インタヴュー、中原由貴(其の二)

ーー初心者の中学生が叩くスネアと今現在の中原さんのワン・ドロ
ップが明らかに違うように、ドラムスというのはやはり身体に直接
関わってくる楽器なのかもしれません。

 「そうですね。私もそう思います。やはりそういう意味では”生楽
器”なのかな。以前青山陽一さんが企画されたブルース・セッション
が原宿のクロコダイルであり、私はその時初めて上原ユカリさん、
林立夫さん、鈴木茂とハックルバックにいらっしゃった林敏明さん
といった大先輩たちとご一緒させて頂いたのですが、リハーサルも
本番ももう何も喉を通らないくらい緊張しました。ある時リハーサ
ル・スタジオでユカリさんが『俺、1回引退しているからさあ~』
なんて言いながら、次の瞬間ふとタムをポン、と一打叩いたんです
ね。その音がもう(笑)。タムの一打がこうも違うのか、と私はも
う本当にびっくりしてしまいました。でも、小尾さんはどうしてそ
んなにドラムスに関心があるのですか?」

ーードラムスによってバンドが決まる。聞き手の一人としてそんな
思いがあるからかもしれません。NRBQが日本にやって来た時、ト
ム・アルドリーノのドラムスを初めて目のあたりにしたのですが、
バックビートがバシバシと決まっていくわけです。恐らく0,01秒く
らいの単位での抜群のタイム感が彼にはあるのでしょう。でもトム
本人はきっとそんなことは意識せず、ただ自然にプレイしているだ
けなのだと思うのですが、バンド全体に活気を与えているのがこっ
ちにもはっきりと伝わってきたんです。先ほど林立夫さんのお名前
が出ましたが、ぼくはやはり林さんやジム・ケルトナーのように歌
心と間合いがあるドラマーがとくに好きですね。そして中原さんに
関して言えば、16ビートでこれだけ間合いのあるヒューマン・タッ
チを打ち出せる人はなかなかいないんじゃないか、と思っています。

 「わあ~、そんなことをおっしゃって頂けるなんて身に余る光栄
です。確かに私はとくに青山さんと一緒にやる時は16ビートが中心
になっているかもしれませんねえ。16ビートのパターン1小節だけ
で唸らされるようなプレイヤーに憧れるんですけども、8ビートを
叩かせると全然ダメ、というようなプレイヤーにはなりたくないな
あとも思ってまして。またクニオさんの話になってしまいますが、
あの人が叩き出す歌心溢れる8ビートは本当にすごいと思うんです。
クニオさんの無駄のない8ビートが始まっただけでもう東京ローカ
・ホンクの歌が作る情景の最初のページが始まるんですよねえ。
8ビートをしっかり持っている人にはやはり憧れますね」

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☆☆☆☆テクニックに走らなかった故に守られたことがあります

ーークニオちゃんは最高の歌伴ドラマーだよね。でも中原さんが叩
く8ビートも素晴らしいと思います。

 「よくバンド仲間たちと話すのですが、私たちより上の世代には
めちゃくちゃ上手い人がたくさんいるんですよ。でも私たちの世代
はパンクやニューウェイヴを通り過ぎたことも関係しているのかも
しれませんが、大学時代の同世代の仲間たちも、テクニック至上主
義というよりは、味があるとかいわゆるヘタウマというような人の
ほうがかっこいい、と思う傾向にある人が多かった気がします。私
はどちらかというと”訛り”のある演奏のほうが好きですし、なんで
も出来るようになりたい!と思って練習をしなかったぶん守られた
ものがあるのかもしれないなーというような気もします。ドラムス
を長年やっているとだんだんラテンやジャズに手を出したくなった
り、出すべきじゃないか、という提案をされたりすることもよく
あるんですが、雰囲気だけの生半可な気持ちではラテンやジャズは
演奏出来ないぞ、という畏れもあって、そこら辺の選択については
慎重でした。ただ最近になってようやくそういう音楽の勉強もして
おけば良かったな、と思うようになってきました。でもやはり、東
京ローカル・ホンクの木下弦二さんがおっしゃっていた、という話
を聞いたのですが、苦労して習得した技術をそのまま使うのではな
く、そのテクニックを一度寝かせて禁欲的になるほうが、本当の意
味で音楽全体を見渡せるんだと私も思います」

ーー16ビートの一番解りやすい典型例を挙げると、マーヴィン・ゲ
イの「What's Going On」と「Mercy Mercy Me(The Ecology)」、
スティーヴィ・ワンダーの「Tuesday Heartbreak」などがあると思
うのですが、これら70年代初期の16打ちは時代の変遷とともにグラ
ウンド・ビートになり、ニュー・ジャック・スウィングになり、あ
るいはヒップホップやレゲエのダンスホールにもどんどん援用され
ていきました。勿論ループとしても当たり前のようにサンプリング
されているビートですが、こうした現象について一人の音楽家とし
て、どういう印象をお持ちですか。

 「確かに90年代には打ち込みが当たり前のようになっていました
ね。ジャスト・ビートだけではなく、ヨレも強弱も機械で調整して
出来てしまうのですから、もうドラマーは商売上がったりだ!とい
う話もよく聞きました。私個人の意見を言わせて頂くならば、シー
ケンサーとかサンプリング・マシンとかが入っているものはあまり
好んで聞かないほうですねえ。演奏する立場としても、バンド・ア
ンサンブルのなかに一個だけでも反応してくれない機械があるのは
嫌です。同期モノに生のリズムを合わせていくアプローチも面白い
とは思うのですが、私はとにかく全部が生楽器で反応し合っていく
演奏が好きなんですね。勿論クリックに合わせてドラムスの練習を
することはありますが、バンド全員がクリックに合わせて演奏する
というのはちょっとなあ~、と思ってしまうんです。まあそのバン
ドが目指す音楽にもよるのでしょうし、こんなことをドラマーが発
言したりすると『自信がないからじゃないの?』なんて意地悪を言
われたりもするんですけどね(笑)。そして私自身の演奏スタイル
について言うと、ここでこういうタメを作ろうとか、次にハネよう
とかを意識しているわけではないので、『もっとスクエアに叩いて
みて!』とか『まったくハネないでみて!』と言われても、自分が
ハネてるのかハネてないのかも解らなくなってきて、全然出来なか
ったりします(笑)。でもそうやって自分のなかから自然に出てく
るビートが私のドラムスなんだと感じてくださったとしたら、すご
ごく嬉しいです」

(其の三に続く)

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by obinborn | 2011-10-28 22:14 | インタヴュー取材 | Comments(0)  

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