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ロング・インタヴュー、中原由貴(其の三)

☆☆☆☆☆私はバンド・グルーヴを信じています

ーー青山陽一the BM'sの演奏はベースレスのトリオ編成故に、綱渡
り的なグルーヴがとてもスリリングです。

 「鳥羽修さんに青山さんを紹介されたのが最初の出会いでした。
その後青山さんから声を掛けられBM'sに参加するようになってか
ら5年くらい経ちますが、青山さんはとても器の大きな方ですね。
私の演奏に細かく口を挟むのではなく、すごく自由にプレイさせ
てくれます。勿論スタジオでは曲の構成全体をこう変えようよ、
こうやり直そうよといった試行錯誤はあるのですが、基本の部分
では各自の演奏を尊重してくれるんです。またライヴの場では私
の演奏が途中でヨレたり走ったりすることも多々あるのですが、
そこでの三人の駆け引き次第で最高の展開に持っていってもらっ
たなあ、ということもたくさんあります。オルガン・トリオであ
る現在のBM'sはベースレスという特殊な編成なだけに自由度も高
く、その場その場でどう展開するかスリリングな部分もあると思
いますが、伊藤隆博さんのオルガンは左手とフット・ペダルでベ
ースを兼ねていることもあって、すごく牽引力があるんです。
伊藤さんが司令塔となって演奏中に『こっちに行くぞ!』という
暗黙のサインを出すと、新たな流れが次々と生まれてきますし、
その膨らんだ部分を三人でどんどん拡大していく時などは、まさ
にライヴならではの醍醐味を感じます。BM’sには長い歴史があり
歴代のメンバーもたくさんいますが、伊藤さんだけは初期からず
っと青山さんと演奏していますよね。そんなことも関係している
のかもしれません。タマコウォルズに関してはBM'sのように私が
が呼ばれて参加するようになったわけではなく、自分たちが始め
た自分たちのバンドという意識がやはり強いです。タマコウォル
ズはジャムっぽい演奏の面白さを追求している部分もありますが、
6人編成という大所帯なだけに、新曲の基本アレンジを決めるま
でにすごく時間をかけます。私は最初アウトロの長い演奏が苦手
で本当に苦労しましたが、タマコをずっとやり続けているうちに
だんだん長い演奏の面白さがわかってきました。それもこの6人
のやりとりの塩梅がわかって来たから、というのも大きいと思い
ますし、みんなが私に本当に寄り添ってくれているなあと感じて
います。ベースの河野薫さんは私がどうなったって信じられない
くらい付き合ってくれて、一緒になって曲を膨らませてくれるん
ですよ。ベーシストによってはドラムスがちょっとでもヨレたり
遅くなったりすると、そのことを気が付かせるためにクリックの
役割をしようとする人もいるのですが、そうして修正すると細部
では持ち直したとしても、サウンド全体のグルーヴが削がれてし
まうと思うんです。それもドラムの人の裁量によっては削がれな
いこともあるかもしれないんですけど、私はそうやられると、も
う一気にそこからガタガタになってしまいます。ですからBM’s
にしてもタマコにしても、私が一緒に演奏するメンバーたちはそ
こら辺の共通認識を持っている人たちが多いと思います。最低限
の守りに入ってしまうような演奏ではなく、どんどんグルーヴの
波に飛び込んでいく勇気が私にもだんだん解ってきました」

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(タマコウォルズのベーシスト、河野薫と)

ーーBM'sの「Friday Rider」で中原さんはマーチング・ビートを
援用されています。これは素晴らしい効果を上げていますね。

 「あの曲を初めて演奏した時のことは、その日のスタジオの
風景までをくっきりと思い起こすことが出来ます。最初にレコー
ディングされたものは違うアレンジだったのですが、青山さんに
『もう少しラテンっぽく出来ないかな?』と言われ、そこで思い
付いたのがあのドラミングだったんです。先ほどラテンやジャズ
には走らなかったというお話をさせて頂きましたが、そんな私が
ラテンのなかで唯一練習したことがあるのがソンゴのパターンで
した。これはドラム・キット全体を使って手足をバラバラに動か
す練習のようなリズム・パターンなのですが、そのパターンを全
部スネアだけに置き換えて使ってみたら、ハマったんです!
私の演奏が普段どれだけ青山さんのお役に立っているのかは解ら
ないのですが、あの曲に関しては少しは貢献出来たかな~と感じ
ています」

ーー青山さんの久し振りのアルバム『Blues For Tomato』がもう
すぐ発売されます。レコーディング・メンバーの一人として中原
さんの立場から見ると、どんな仕上がりになったと思われますか。

 「これは青山さんの音楽ですし、リリース前に私のほうからど
れだけ話していいのかは解らないのですが、ベーシックなレコー
ディングはたった2日間で集中しながら終わらせることが出来ま
した。今回はBM'sのオルガン・トリオに千ヶ崎学さんのベースが
加わったカルテットでの一発録音です。あとはそこに青山さんが
いろいろと被せていく作業だったのですが、この前完成した最終
版を聞かせてもらったらすごくいい感じでした。そうですね、
『Blues For Tomato』のアルバムには4人が『せ~の!』で臨み、
全力疾走した勢いが詰まっていると思います」

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(10月に発売された青山陽一のニュー・アルバム『Blues For Tomato』
ここ数年青山がテーマとして掲げてきたオルガン・トリオでのシンプルで
隙間のあるグルーヴを発展させた意欲作であり、中原のドラムスも生なら
ではの勢いに満ちている)

ーーお好きなドラマーをぜひ教えてください。

 「私が一番影響を受けたのはカーネーションにいた矢部浩志さ
んです。カーネーションのライヴ音源などを聞くと、さっきのお
話ではないですが、全体がウネりながら一つのグルーヴを作って
進んでいるのが解ります。長い間奏やアウトロでも矢部さんが出
した一瞬のフィル・インで展開したり終わったりするんですけど
も、そのフィルがちゃんと終焉を告げるように長尺の演奏全体が
デザインされてるんですよ。アイ・コンタクトではなく音だけで
反応し理解し合える関係というのも理想ですけども、そういう風
に物語を作れる矢部さんの力はやはり凄いと思います。私はロッ
クも勿論好きなのですが、とくにブラック・ミュージックが好き
なので、クライド・スタブルフィールドとバーナード・パーディ
はとくに好きなドラマーですね。ジェイムズ・ブラウンのドラ
マーでジャボ・スタークスではなくクライドの名前を挙げたのは、
私が大好きな『In The Jungle Groove』の頃のJB'sのメンバーだ
ったからです。クライドが叩く「(Give It Up Or)Turn It A Loo
se」はいつ聞いても素晴らしい! バーナード・パーディはアレ
サ・フランクリンの『Live At Fillmore West』などをよく聞きま
した。バーナードのソロ・アルバムには「Aretha」というそのま
まのラヴ・ソングもありますね。アレサのフィルモア・ライヴの
頃に二人がステディだったんだよ、という話を聞くと『そうだっ
たんだ!やっぱり音楽っていいなあ!』と思ったり(笑)。バー
ナードのライヴは二度観ています。あのファットバック・ビート
とハイハットのオープン&クローズで会場にいたお客さんたちが
全員唸っていて、みんなやっぱりここでぐっと来るんだなあ!と
聞いていて何だかとても嬉しくなりました。後で彼のスネアをこ
っそりチェックして、後日探し回ったのですが、そのものは重す
ぎたのと高すぎたので買えず、そのピッコロを買いました。でも
それは結局スネア自体のパワーが強すぎて私には使いこなせず、
矢部さんが使っているのと同じPearlのスネアを探して買いまして、
今はそれをメインで使っています」

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(JBにアリーサという二大棟梁が70年代初期に残した大いなる道しるべ。
ドラムスはクライドにバーナードが文句なしの快演を聞かせる)


☆☆☆☆☆☆囲碁お見知りおきを

ーーところで普段のバンド活動とは別に、中原さんが企画されて
いる自主イベントに”囲碁お見知りおきを”があります。これはど
ういった主旨なのでしょうか。

 「小尾さんが中学や高校時代にラジオを夢中になって聞いたり、
必死になってエア・チェックしていたというお話を先ほどされて
いましたね。私も明治時代にあった芝居小屋のように、そこにそ
れしか娯楽がなかった故に、収入も違えば趣味も違う、生い立ち
も違う、そんないろいろな種類の人たちが集まる、というような
場所を作れたらなあと思ったのが始まりです。
これまでやったイベントでは音楽だけではなく、詩の朗読や演劇
や紙芝居なども交えています。料理や飲みものも含めて、その小
屋の空間に置かれたひとつひとつの出し物をどれも並列に楽しん
で頂けたら、と思います。それはライヴハウスのような音楽に特
化した場所ではないことが多いですし、他の参加者のみんなも自
分がメインで普段やっている場所とは違って、それぞれが難しい
環境で工夫してやってくれているんですけども、そこに集まって
来てくれた人たちにとって、自分がそれまでに触手を伸ばしたこ
とがなかった新しい世界への入り口になったら嬉しいなあと思い
ます。また東京ローカル・ホンクの話になりますけども、彼らは
大掛かりな音響設備がないところでもちゃんと音楽が出来る。そ
ういう音楽のあり方について考えさせられたことも、きっかけの
ひとつです」

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(今年9月に吉祥寺で行われた第二回目の”囲碁お見知りおきを”
の会。音楽のみならず寸劇、写真展、詩の朗読までの多彩で手作り
感溢れるイベントだった。なおこの日中原はスティーヴィ・ワンダ
ーの「Ebony Eyes」を日本語詞で披露。スタンディング・スタイル
のドラムスとともに会場は温かい拍手に包まれた)

ーー雑多で気楽な面白さがあるようですね。

 「というのも私たちがツアーで京都の拾得に行った時、ふと入
ってきた外国人のお客さんがいたんです。その人は日本人の彼女
とデートしていて、ふとライヴが見たいという話になり、何をや
っているかも知らずにフラッと拾得に来てくれたんです。そうい
う音楽との接し方もいいなあと思いました。今はライヴハウスっ
てバンド同士が土日の奪い合いみたいな状況になっているじゃな
いですか。お客さんにしても毎回来てくれるようなすごく熱心な
人たちがいるかと思えば、一生ライヴハウスには縁がないような
人たちもいる。そこら辺があまりにも極端に二分化してしまって
いるような気がするんです。もっと自由に出入りして欲しいし、
もっと気楽にその場を楽しんで欲しい。今日時間あるけど何して
遊ぶ? ライヴでも行く? みたいなことがあったらいいなあと
思います。今日はさっきまで生まれて初めてフラメンコを観に行
っていたのですが、そのくらいの初心者的な好奇心でいいんだと
思うんです。私は父と上海に行ったことがあるのですが『新天地』
いう場所に行った時、思わず心が高鳴りました。レストランやバ
ーやライヴもやっているような飲食店、ファッションビルなどが
集まった場所だったんですが、旅行者やおじさんもおばさんも若
者たちも、あらゆる年齢と人種の人たちが集まってとにかく活気
に満ち溢れていまして、無謀なまでのエネルギーを感じることが
出来ました。向こうにはこんな言い伝えもあるそうなんです。
『お金と仕事がなかったら、とにかく新天地に行け!』って」

ーー今日はお忙しいなか、どうもありがとうございました。それ
では最後に生涯のフェイヴァリット・アルバムを5枚挙げてみて
頂けますか。

 「こちらこそありがとうございました。小尾さんといろいろお
話出来て今日はすごく楽しかったです。5枚というのは難しいの
ですが、まずはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの『Fresh』
です。ジェイムズ・ブラウンは編集アルバムで申し訳ないのです
が、大好きな『In The Jungle Groove』を選びましょう。あとは
グラハム・セントラル・ステイションの『Release Yourself』と
カーネーションの『Booby』です。最後の一枚は、、、う~ん、
どうしようかな、、、。そうだ!ブルース・ブラザーズのファー
スト・アルバム『ブルースは絆』です! それと曲単位で言って
もいいですか? 私はダニー・ハサウェイの「Jelous Guy」とス
ティーヴィ・ワンダーの「Ebony Eyes」にはかなり影響を受け
ました。「Jelous Guy」のハネるようなビートを辿っていくうち
にニューオーリンズの音楽に目覚め、ミーターズを好きになって
いったりしましたから、そんな意味でも忘れられないですね」

2011年9月24日 西荻窪のRonnie'sにて
取材・文 小尾 隆

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(スティーヴィが76年に発表した一大音楽絵巻。終盤の「Ebony Eyes」では横揺れのしなや
かなビートがずっと余韻を残していく)

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(スライにハサウェイ。キホンにして言わずもがなの名作。心して聞こう!)



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by obinborn | 2011-10-28 22:10 | インタヴュー取材 | Comments(0)  

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