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静かなるロックンロール

東京ローカル・ホンクの4年ぶり3作目のアルバム『さよならカーゴカルト』
が本日リリースされた

この4年の間にはライヴ音源からより選った『クワイエット・ロックンロール
の世界』(08年)があり『生きものについて』(07年)のリマスター版も2010年
の秋に届けられたが オリジナル・アルバムとしてはまさに久しぶり
2010年の前半には本作のレコーディングのためライヴ活動が一時中止されたことも
記憶に新しいところだ

それでは一曲ごと ぼくなりにメモしていこう

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1. 泥男

ドラムス→ギター→ベースと次第に音が重なっていく導入部がスリリングで
アフリカ音楽にも通じるミニマル(反復)性をうまく活かしている 木下弦
二はかなりアフリカ音楽が好きらしく 以前から「犬」や「お馬鹿さん」な
どにその痕跡が感じられたが この曲のリズミックな響きはとくに凄い!
抽象性を持たせた歌詞も遥かなる物語を伝えていく

2.拡声器

町の集会所や公民館の近くにはマイクが四方に向かった塔があり お昼やスモッ
グや"良い子はお帰り"を毎日告げるのだが 会社勤めをしているとなかなか忘れ
がちだ そうした拡声器を題材に人々の暮らしをスケッチした木下らしい曲であり
子供を見つめる親の思いも昔と今との間を往来しながら揺れている 文字通り
拡声器を模した井上文貴のスライド・ギターが曲の表情を際立たせた
ライヴでは以前からおなじみの曲だけに ここではややピッチが早く聞こえるが
これはアルバム全体を見渡した場合 ある程度アッパーに仕上げて凹凸を作り
たかったのだろう ブリッジ部や後半での新井健太の”裏メロ”ベースもしなやか
に弾んでいる

3.自然ソング

弦二の詩的なソングライティングが味わえる秀逸な作品 輪廻のことを歌っている
のだろうか 弾き語りを基調としながら次第に音が重なっていく後半の展開も見事
であり ここでも井上が素晴らしいスライド・ギターで貢献している 人はみな孤島
だと書いたのはピート・シンフィールドだったろうか

4.鏡の中

抽象度が高い歌詞がリズムの細かい波のなかにうまく映えている 「泥男」同様に
アフリカ音楽への気の利いたアプローチ 新井健太と田中クニオによるリズム・セク
ションの小技もたっぷり堪能出来る

5.冬眠

シンガポール・セッションつまりファースト・アルバム(05年)の際に出来て
いた曲だというが 発表する時期を見計らっていたのだろう ようやくここに
陽の目を見た佳曲 ブラジルの人々は広い意味でサウダージ(郷愁)という言葉
を好むが オン・クラーベではないクラベスの響きが 喉元まで出掛ったサウダージ
を口笛を吹きながら押し止めている 歌の主人公は態度を留保しつつも旅先を見つめ
ているかのよう エンディングの和声感は思わず息を呑むほどの美しさだ

6. お休みの日

冒頭から”アーケイド””かぼちゃ”といった商店街の単語が出てくるこれまた弦二
らしい曲 どうやらこのカップルは休日に近所を散歩しているようだが 二人が経て
きた歳月は それこそ音の絵のなかに押し止められている 後半次第に厚くなるコー
ラスは まるで二人の影のように伸びていく 

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photo by Keigo Saito

7.目と手

ライヴの場では昨年の夏頃から披露され始めたお馴染みの曲 本人は”ワイルド・
ワンズとスティーリー・ダンの合体”と謙遜するが 素直なメロディと簡素な歌詞
が見事に結晶し転調が視界を広げる 以前の「いつもいっしょ」同様に あらゆる
意味でホンクの良さが解りやすく詰まっている こういう日常が3月の震災後では
より愛おしい そう痛感する人も少なくないだろう 目の先に映るもの 結んだ手
に残る温もりのこと たとえもう時間が取り戻せないとしても

8.昼休み

この曲も現在の彼らのライヴでは大きな山のひとつ レゲエやダブの手法を大胆に
導入したライヴをぜひ体験して欲しいところだが このスタジオ・ヴァージョンでも
田中クニオのリム・ショットが冴え渡り ”歯の抜けたような商店街”をじっくり
観察した弦二の歌世界を支える 自分の目に映る場所から不穏な空気までを引き寄せ
るという意味ではうずまき時代の「ヒコーキのうた」や彼ら一流のステイトメントで
ある「社会のワレメちゃん」と通じる曲であり 勿論このアルバムでも頂点となる
むろん「拡声器」との連なりで解釈するのもあなたの自由だ

9.おいでおいで

あなたの身長は160センチだろうか170センチだろうか そんな現在のあなた
にも1メートルちょっとの頃があったに違いない その視界で見えたもの感じたこと
があったはず 子供の頃に大きく見えた町がいまのぼくには小さく見える 身長とは
真逆の大いなる皮肉だ 木下弦二という人は明るい響きのなかに悲しみを感じさせる
のだが この曲ではもう少し積極的に新しい生命を祝福する おいでおいで面白いね

10. お散歩人生

2月に取材させて頂いた際にも 弦二はうずまき時代の「心の行進」の対となるよう
な曲を用意している旨も語ってくれたが こうして完成したのが「お散歩人生」だと
いう 町から出て行く人もいれば帰ってくる旅人もいる 本作では「お休みの日」
とも歩調を合わせているようだ 決して英雄的には造形されない人々の群像劇も
もうすぐ終わる

11.はじまりのうた

最後を優しく包むのは諦観や別れをも呑み込んだ”はじまり”の歌 ここまで出て
きた同じ町の違う主人公たちが歳月のなかに浮かんでは消えていくようなエンドロ
ールとしてこれ以上のものはないだろう ”みんな夢のように過ぎて”の繰り返しが
メンフィス・ソウルの芳香溢れるミディアム・グルーヴのなかで次第に劇的になって
いく アラケンとクニオのハイハットが織り成すリズムのシンクロ感が圧倒的であり
ライヴでの高揚感とともに このバンドが長年に亘って培ってきた実力を伺わせる 

by obinborn | 2011-11-16 04:05 | rock'n roll | Comments(0)  

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