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ロング・インタヴュー、井上文貴(上巻)

およそ4年ぶりとなるサード・アルバム『さよならカーゴカルト』を発表した
東京ローカル・ホンクは、2011年の秋からレコ発のツアーを行い各地で好評を
博している。前身となるバンド、うずまきを含めればもう18年ほどのキャリア
を誇る彼らだが、その最新作に日本語ロックの成熟を感じた方々も少なくない
だろう。11年2月に行った木下弦二の取材に続いて、今回はツアーから一旦戻
ってきたばかりの井上文貴に話を伺った。
無口な彼をフロントマンの弦二がいじるというステージではお馴染みの"寸劇”
が微笑ましく言い含めるように、ホンクの四人のなかでは最も寡黙な印象を与
える井上だが、インタヴュー本番前には筆者を逆取材するなど案外お茶目で細
やかな気遣いを見せる。むろんけっして弁が立つというタイプではないのだが、
その言葉のひとつひとつには確かな実感が込められていた。クラスに一人か二
人は必ずいた内気な青年を懐かしく思い起こす方がいらっしゃるかもしれない。
その青年は学校の誰よりもギターが上手く、誰もいなくなった放課後の教室か
らいつも窓の彼方をすくっと見渡している。

    *      *      * 

☆楽しかったツアー

ーーレコ発の西日本ツアー、お疲れ様でした。東京で馴染みのお客さんたち
をまえに演奏するのとはまた違ったと思いますが、手応えはどうでしたか。

 京都では毎年のように演奏していますが、対バンしてくれたPirates Canoeが
温かく迎えてくれたこともあり、お客さんもいい雰囲気でした。九州は食べ物も
美味しかったし、初めて広島は福山にも行きました。
 今回は(マインズ・レコードの)レーベル・メイト、ヤセイ・コレクティヴと
と一緒の旅で彼らからの刺激も大きかったです。来年は初めて東北地方も回るん
ですが、知らないところでもっと演奏したいですね。
 Beautiful No Nameツアー(07年秋)などレコ発のライヴは過去にもありまし
たが、個人的には今回がレコ発を意識した初めてのツアーでした。というのも、
以前は自分たちがずっと演奏してきた曲をそのままやるという感じだったのです
が、今回はまだライヴであまり演奏したことのない曲も結構あって、それらの曲
に関してはツアーをしながら演奏を固めていくというのがあったからかもしれま
せん。ツアーの前、リハーサルの時間があまり取れなかったということもあり、
東京に戻った12月3日の渋谷B.Y.Gあたりでやっと形になってきたという気がし
ます。

ーーこの『さよならカーゴカルト』ツアーは来年春まで続くわけですが、今年の
ぶんは12月の東京ツー・デイズ(2日高円寺JIROKICHI、3日渋谷B.Y.G)でひと
まずファイナルでしたね。そのツー・デイズの演奏を聞いていて、東京ローカル・
ホンクが現在何度目かのピークにあると感じました。こうした演奏はやはり始ま
ったばかりのバンドには出来ないし、緊密な人間関係の上に成り立っている音楽
だと改めて痛感させられました。やはり長年一緒にやってきて達成感を覚えるこ
とはありますか。

 達成感というのではありませんが、この4人で今も音楽ができるという喜びみ
たいなものはありますね。バンドには色々なタイプがあると思いますが、自分た
ちの場合は徹底的に関わることで良い所も悪い所も消化してからじゃないと前に
進めないことがあったりして、時間はかかりますが少しずつ前に進むタイプなん
ですね。まだまだやれることが一杯あるし、そういったことを新鮮な気持ちでで
きるっていうのは、貴重なことだと思います。

ーー12月8日には原宿のクロコダイルでヤセイ・コレクティヴのワンマンがあり
ました。ぼくはその日はお伺い出来なかったのですが、井上さんはゲストでギター
を弾かれたみたいですね。ヒューマン・タッチの極限のようなホンクとエレクトロ
ニカのヤセイとでは音楽性がかなり違うと思うのですが、その点はどうでしょうか。

 そういった違いはあまり感じません。彼らの音楽がどういうジャンルになるのか
は解りませんが、バンド内での個々のあり方が面白いと思ったし、ホンクと遠くな
いとも感じました。あの日は彼らがホンクをイメージして書いたという「Country
Dad」という曲、これは彼らのアルバムにはまだ入っていないと思いますが、その
曲を一緒に演奏しました。そこで私は『さよならカーゴカルト』から「泥男」と「
鏡の中」のイントロ、そして「昼休み」の展開部のフレーズを彼らの変拍子のなか
に織り混ぜて弾きました。そうそう、導入部ではベーシストの中西道彦が「カミナ
リ」のベースラインをくずした形で弾いていました。

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01. 泥男   
02. 拡声器 
03. 自然ソング   
04. 鏡の中   
05. 冬眠   
06. お休みの日
 ☆  ☆
07.目と手
08.昼休み
09.おいでおいで
10.お散歩人生
11.はじまりのうた

☆☆自分なりに出したい音がある

ーー井上さんがステージで使用されているメインのギターを教えてください。

 はい。ミュージックマスターとスライド・ギター用のグヤトーンです。グヤト
ーンは改造してギブソンのハムバッキングのPUを装着しています。エフェクターは軽く歪ませるためのオーバードライヴなどを使っています。

ーー今回のアルバムでは「拡声器」「自然ソング」「冬眠」「おいでおいで」と4
曲でスライド・ギターを弾かれています。井上さんらしい控えめなフレーズで、
高音部が澄み渡ったきれいな音色ですね。

 自分なりに出したい音というのはあるんです。自分の持っている楽器とアンプ
の範囲内でいい音をいつも探すようにはしています。今回の『さよならカーゴカ
ルト』では「鏡の中」「お休みの日」「お散歩人生」では実はテレキャスターを
使っているんです。「お散歩人生」はカリカリとした方のギターがテレキャスタ
ーです。テレキャスターは一時期ライヴでも使っていたことがあるんだけど、リ
アのピックアップのどうしても暴れるようなハイの音が苦手で、フロントでしか
弾いていませんでした。でも今回は久し振りにアルバムの部分部分で少し弾いて
みました。「鏡の中」では、あえて(ピックアップの)リアの部分で弾いていま
す。あのフレーズはミュージックマスターでは生まれてこなかったと思う。それから「おいでおいで」のエンディング間際のスライドは、チャンドラーのストラトキャスターで弾いたものです。

ーー『さよならカーゴカルト』の録音に関するエピソードをもう少し聞かせて頂け
ますか。

 ファースト・アルバム(『東京ローカル・ホンク』05年)の際は久保田麻琴さん
にテイクの取捨選択まで関わって頂きましたが、今回は全てのテイクを自分たちホ
ンクのメンバーで選び、その上で麻琴さんにマスタリングとミックスをお願いしま
した。「冬眠」はそのファースト用に録音されたテイクですが、今回やっと初めて
アルバムに収録することが出来ました。この「冬眠」の録音の音がすごく良かった
ので、今回のアルバムでは核となって、アルバム全体をいかにこの曲へと近づける
かがテーマのひとつだった、と麻琴さんから聞いています。
 とにかく今回のアルバムは、自分たちのイメージする音と麻琴さんの感覚が初め
からぴったり合ったのが良かったとみんなで言っています。自分のギターのことを
言うと、「鏡の中」はディレイ・サウンドを前提にフレーズを組み立てましたが、
最終的にはディレイを通していない音になりました。”それがいい!”って他のメ
ンバーに言われてね。「昼休み」のソロにしても、採用されたテイクは試し録りし
ていた時のものです。また「目と手」に関してはもの凄い数のテイクを録音したの
ですが、最終的に使ったのはレコーディングの初期段階のテイクでした。弾けてる
弾けてないということよりも”なにか世界がある”っていうことを優先したので、
そのようなテイク選びになったんですね。

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(アルバムの発売に先行して「はじまりのうた」「目と手」「昼休み」と3曲を
ダウンロード配信で連続シングル・リリースするなど、ホンクは新しいメディアへ
の意欲的な取り組みを示した。いずれの曲もアルバムとは異なるヴァージョンに仕
上げられている)

ーー「はじまりのうた」はライヴでも終盤の山になるような重要な曲へと成長してい
きましたね。ベースとドラムスのシンクロ感はハイ・サウンドのようなメンフィス・
ソウル風味があるし、井上さんのギターもループ感が最高に気持ち良くって、後半
どんどん盛り上がっていきます。でも、この曲で井上さんがコーラスに加わっていな
いのは何故ですか?

 ただギターに集中したかったからです。あの曲では一切コードは弾いていなくって、
もう本当にメロディだけを繰り返し弾いています。あのメロディを元にしてギターの
フレーズを広げていく方向も考えたことはあるのですが、弦二さんから”この曲につ
いてはそのままにして欲しい”って言われました。というわけでピッキング・ハーモ
ニクスを元にしたあのフレーズは、あえてああいう禁欲的なものになっています(笑)。
でも、小尾さんは二声のコーラスだと物足りない?

ーーいや、気になったことはないよ。むしろ「目と手」の三声コーラスがより際立つ
というか、いいコントラストになっていると思います。確かにレコーディングで井上
さんのコーラスをオーバーダビングするという方法もあったかもしれませんが、あま
りライヴと違うアプローチをするのも不自然でしょうから。

 そういう意味では「おいでおいで」でも、自分はコーラスに参加していません。こ
の曲もやはりギターに集中したいからなんです。あまりライヴと違うことはやりたく
なかったしね。
(続く)

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photo by Takashi Obi

by obinborn | 2012-01-28 02:55 | インタヴュー取材 | Comments(0)  

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