2月7日

 山本智志さんへのインタヴューのなかでは、音楽にまつわる好きな映画についても
語ってもらった。ぼくが観たことのある作品もあれば、まだ観ていない作品もあっ
た。今年前半のささやかな目標はそれらの映画を体験することだったりするのだが、
まずは自宅にDVDがあった『ラブソングが出来るまで〜Music And Lyrics』(英06
年)から。

 80年代を飾った人気バンドのヴォーカリストがその後落ちぶれて、ノスタルジッ
クでぱっとしない巡業に明け暮れるところからストーリーは始まる。スターの栄枯
盛衰は古今東西繰り返されてきたことだが、彼が属していたバンド”POP"の音楽性
(DX7キーボードとシモンズ・ドラムズによる貧弱なサウンド)も今や古色蒼然たる
もの。駄目男を演じさせたらこれ以上のものはないと思わせるヒュー・グラント
扮するその元アイドルは、そんな現実をありのままに受け入れている風でもある。
どうあがいてもこれ以上でもこれ以下でもないその偶像に対して、ことさら
懐疑するわけではない。

 ところがある日突然、彼の家に”水を注ぐ”女性(ドリュー・バリモア)がやって
来ることで彼は今までの人生を見つめ直し、ソングライティングに向き合うように
なる。当代きってのポップ・ディーヴァ、コークにたまたま曲を依頼されたことがき
っかけであり、たった7日!で曲を作ってこいと言われてからのヒューイとドリュ
ーの奮闘が映画の背骨を支えている。せっかく作った曲が勝手にアレンジを変えられ
歌手のコークにしっかりと異議を唱えるドリューと、”まあこんなもんだよ”と達観
するヒューイの対比は、音楽産業の垢に染まっていない女とどっぷり浸かってしまった
男の行き違いのようにも思えて興味深いし、そんなあべこべのカップルがいつしか
心を合わせながらソングライティングに取り組んでいく様(むろん脱線もあれば齟
齬も親愛の感情もある)に、ゴフィン&キングやウェルズ&マンら50年代の作詞作曲
コンビの姿を重ね合わせるのも自由だろう。

 現在40歳以上の方であれば、もうこれ以上どこにも行けない自分に焦燥すること
があると思う。過去はどこまでも甘美だが、この先に自己救済の日が訪れるとも思
えない。自分がすり減っていく姿を見るのは、人の不幸を嘆くことや満員電車での
諍いを目撃することよりも、まるで自分の影のように切実だったりする。言い換え
れば誰もが冴えないヒューイであり、ドリューであり得るのだ。救済されることの
ない自分が今日もいて、世間の趨勢とちょっとだけズレているあなたがいる。そん
な風に思いを巡らすと、Music And Lyricsというシンプルな映画の原題が、さまざ
まな人々が毎日をやり過ごす営みのようにも思えてきた。

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by obinborn | 2012-02-07 18:50 | one day i walk | Comments(0)  

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