2月9日

 集合音楽としての楽しさ、信頼がもたらす連携したプレイ、音楽地図を瞬時に塗り
変えていくようなスケールの大きさ。テデースキ・トラックス・バンドはどれをとっ
ても文句なしの快演を果てることなく聞かせた。そのジャム演奏はさながらオーネッ
ト・コールマンズ・プライムタイムとオールマン・ブラザーズ・バンドの合体とも言
うべき総力戦(フリーキーな祝祭とブルーズ遺産との統合)であり、初来日の最終公
演となったこの日の渋谷公会堂でも、彼らは休憩を挟まず2時間半に亘って熱が込め
られた演奏を繰り広げた。

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 「このバンドはみんなが主役なの」とテデースキが簡素に言い含めるように、全部
で11人がずらりと並びながら火花を散らし合うインタープレイは、曲の枠組みやCD
の空間と時間の制約から解き放された凄みを見せつける。二つのギター、二つのドラ
ムス、三人のヴォーカリストといった大所帯ならではの賑やかさだが、それでも統制
や均衡が取れたものであり、「Days Is Almost Gone」のようなソウル・バラードに
しても、主役テデースキからマイク・マティソンへと歌い継がれる部分で大きな歓声
が沸き上がるなど、聴衆の多くがスワンプ風味溢れるこの得難いヴォーカリストに
敬意を払っている様子がよく解る。

 先立った名古屋や大坂公演そして東京での初日(8日)とそれぞれ大幅に入れ替わ
っていくセットリストは、グレイトフル・デッドからフィッシュに至るまで培われて
きた音楽の旅を無言のうちに実践する。その足廻りの良さは多くのヴェテラン組が創造
性と過去のヒット曲との間で腐心する姿とはどこまでも対照的だ。ファンにしても、
どの曲が選ばれ選ばれなかったのかという子細よりも、演奏そのもののダイナミズム
や一期一会をきちんと受け止めようとするグッドなヴァイヴに溢れていた。

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 むろんデレク・トラックスのスライド・ギターはその澄んだトーンといい、アラビ
アン・チャントまでに越境するフレージングといい、畳み掛けていく際の奔放さとい
い思わず息を呑まずはいられないものだが、音楽的な影武者と言ったらオテイル・バー
ブリッジだろう。デレクとともに新生オールマンズに進むべき道筋を示したこのベース
奏者は、泥臭さのなかにも譜割りが細かいジャズ〜フュージョン的なセンスがあり、彼
の柔軟な持ち味はスティーヴィ・ワンダー66年1月の大ヒット曲「Uptight(Everything's
Allright)」でフューチャーされたアップ・トゥ・デイトなベース・ソロによく表れていた
と思う。しかも驚くべきことに、同曲ではオテイル自らがファルセット・ヴォイスでスキ
ャットをし、ミルトン・ナシュメントばりの声を披露したのだった。「Uptight」はご存知
の通り、65年のストーンズ曲「Satisfaction」同様に頭打ちのスネアが連続するナンバー
だが、そうしたタイトなノーザン・ビートを背にベースとヴォイスで縦横無尽のグルーヴ
を生み落としていくオテイルの存在は、きっと想像以上に大きなものに違いない。

 オテイルとは実の兄弟であるコフィ・バーブリッジがハモンドB3とクラヴィネッ
トを自在に組み合わせたキーボードを展開するあたりも、このバンドが継承物語だけ
に依っているのではないことを知らしめる。ジョン・セバスチャンが帰郷を願う自分
を恋人に語る67年の(ヴェトナム戦争を仄めかせた)「Darling Be Home Soon」
のカヴァー演奏にしても、原曲の味わいを保ちつつそのリズム解釈は斬新な閃きに
満ちていた。同じカヴァーではこの日はディレイニー&ボニー&フレンズの有名な「
Coming Home」が演奏されたが、こちらは比較的オリジナルに忠実なアレンジであり、
新生面の打ち出しと守るべき伝統の結晶というテデースキ・トラックス・バンドが掲
げるすごく大きなテーマを鮮やかに映し出してゆく。奇しくもこの夜は”家に帰る”
を主題にしたカヴァーが2曲並んだが、それらがもたらすメタファーもまた僕たち
一人一人に投げかけられたものだ。実際、”家に帰る”という平易な言葉がこれほど
苦みを伴うものに変貌するとは、恐らく多くの日本人が一年まえには思っていなかった
はず。

 またブルーズから受けた恩恵という面ではマディ・ウォーターズが1950年に歌った
「Rollin' And Tumblin'」も選曲されていたが、原曲の「もしも川がウィスキーだった
ら」(If The River Was A Whiskey)というブルーズや伝承歌の常套句が消されて(メ
ンバーに飲酒嫌いでもいるのだろうか)、新たなリリックが加えられるなどの細かい
工夫もあった。この日アフロ=アメリカンの音楽家からはワンダーとマディの曲が選
ばれることになったが、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの「Sing A Simple Song」
と「I Want Take You Higher」が束ねられた日もあったという。

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 ミシシッピの大地を這うような粘っこい空間を醸し出した「Wade In The Water」、
ブルージーなリフが剛胆さを際立たせる「Learn How To Love」、全員が一丸となっ
た「Love Has Something Else To Say」などの生き生きとしたアンサンブルは最高に
痺れたし、テーマのメロディを大胆に解体して長尺曲に変貌した「Bound For Glory」
(コフィがフルート・ソロを取ったのはこの曲だったろうか?)も、静から動へとデレ
クのスライド・ギターが最高の見せ場を作ったメロディックな「Midnight In Harlem」
も、まさに集合音楽の最高峰といったところだろう。ホーンズの三人やバッキング・
ヴォーカル二人のヒップホップ的なダンスもいいアクセントになっていたし、彼らが
持ち場を離れる時はドラマー二人の背後でパーカッションを鳴らし続けるなど、リズム
・コンシャスな方向性〜ビートの波を常に考えながら一体化していく姿が頼もしい。

 萩尾望都が「11人いる!」で描いたのは10人の仲間が一人のエイリアンと心を合わせ
ながら困難に立ち向かっていく近未来のファンタジーだったが、テデースキ・トラックス
・バンドの11人が育むものもまた、現代に於ける音楽遺産の継承と発展をめぐる寓話のよ
う。そんなことまで思いを巡らさずにはいられなかったほど素晴らしい夜だった。

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(写真は彼らのオフィシャル・サイトから転載させて頂きました)
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by obinborn | 2012-02-10 12:17 | one day i walk | Comments(7)  

Commented by BROWN SUGAR at 2012-02-10 14:02 x
いやぁ、此方の予想なんて遥かに越えた素晴らしいライヴでした。
小尾さんのレポート読んでたら、観た公演は違えど「まさに!」ってカンジでくっきりと光景が蘇ってきます^^

今年の最初にホンマにエエモン観ました!!
Commented by obinborn at 2012-02-10 14:48
未だ興奮醒め止まず。何だか凄いもの見ちゃったなあ〜という感じです。
終演後に「国境の南」で飲んだビールが美味しかったこと!^0^
『Songlines』のCDも流してくれて余韻を反芻するのでした。大坂も
盛り上がったみたいですね!
Commented by kofn at 2012-02-10 16:51 x
私も昨夜見ました。満たされました。
あんな大所帯なのに余分な音がなく気持ち良さだけが溢れてる。
天上のロックだと思いました。
黙っておれずコメント失礼します(笑)。
Commented by ミック at 2012-02-10 18:05 x
あ~っ、良いなぁ!
観たかったなぁ~・・・。

でもナイスなレポート、ありがとうございました。
Commented by obinborn at 2012-02-10 18:56
>Kofnさん
ロバート・ジョンソンが悪魔と取り引きしたのなら、テデースキたちは神様と契約したのではないかと思わせる崇高な演奏でしたね。お会い出来ず
に残念!もしお時間があれば12日の木下弦二@Leteをぜひ!^0^

>ミックさん
誉めて頂き、こちらこそありがとうございます。九州公演がなくって
今回は残念でしたね。レポは一晩寝かせてからなるべく冷静に書いた
のですが、思わず熱くなってしまいました(笑)。
Commented by ちーくん at 2012-02-10 23:57 x
いやあ、小尾さんもいらしてたんですか。お会いしたかったなあ。
私は1階の一番後ろで観ていました。
あれだけの人数がいながら、バンドとして大きなうねりがある。その中で個々のプレイヤーが浮かび上がっては、またうねりの中に消えて行く。音楽的要素はロックの範疇だけで語り切れないのは分かっていても、なおかつ、本来ロックの持つ自由さはこういうものではなかったのかと。2時間半でも物足りないような余韻が今でも残っていますねえ。
Commented by obinborn at 2012-02-11 02:23
ちーくん、お会い出来ずに残念! 
風通しが良くって、山もあれば谷もあって、まさにロック本来の自由さが
しっかりと息付いているような演奏でしたね。ロック!と声高に叫ぶこと
がない故にロックの自由闊達さを逆に証明し、その意味を投げかけていく
。そんな素晴らし過ぎるライヴでした!

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