3月2日

21世紀に入ってからのボブ・ディランは、その英雄伝説とは裏腹に自らを
無名性や匿名性のなかに置こうとしているかのようだ。

『Love And Theft』にしても『Modern Times』にしてもそうだったし、
最新作『Together Through Life』に於いても、その音楽が響かせているのは
ディランという個人の感情発露というよりは、アメリカ南部の木霊(それがマディ・
ウォーターズの「Rollin' And Tumblin'」であれ、デヴィッド・ヒダルゴのアコ
ーディオンがメキシコ情緒を醸し出す「If You Ever Go To Houston」であれ)
であるような。

簡易なリフと歌詞とが骨格となるブルーズ曲「Jolene」にしても、そこから
伝わってくるのはディランの個人史ではなく、名もなき人々の人生讃歌
(「俺はキングでおまえはクィーンさ」的肯定)であり、「I feel A Change Comin'
On」での主人公は、ビリー・ジョー・シェイヴァーのカントリー・ソングと
ジョイスの詩を同時に感じている。

こうした伝承歌のようなスタイルを自作曲のなかで展開することで、ディランは
きっと自分のちっぽけな個人史や芸能的な英雄像から自由になろうとしているの
ではないだろうか。

そうした意味で近年のディランは、他人が生きた物語の語り部になろうとしている。


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多くの作詞をロバート・ハンターに委ねたソングライティングの客観性が、
ブルーズ・デビッドソンの写真を借用したジャケットの”匿名性”とともに
アメリカ南部の匂いや物語性を伝える09年の快作。
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by obinborn | 2012-03-03 01:53 | one day i walk | Comments(0)  

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