3月23日の東京ローカル・ホンク

(やや長めの前口上です)

『音楽批評の原則について』のテキストに関しては、ツイートやリツイートと
いった形で多くの反響を頂きました。ありがとうございます。カウント数が普段
の倍もあったし(笑)。しかしそれでもですね、好きな音楽の感想を書いたテキス
トよりも問題提議(意見表明)したほうのそれに注目が集まってしまうというのは
個人的には思わず考え込んでしまうわけで、みんな”音楽そのもの”よりも討論の
ほうが好きなのかな〜? などと思い始めると何とも複雑な気持ちに陥ってしまう
のです。問題提議のほうが私のつまらぬ音楽感想文よりも関心を集めやすいという
側面はあるのかもしれませんが、不肖なワタクシ個人の率直な思いとしては、負の
感情に多くの時間を費やすならば、自分の本当に好きな音楽やバンドをもっと聞い
てみて欲しい! という気持ちのほうが遥かに強くあるわけです。  

まあ、私のようなへたれおっさん音楽ライターのボヤキはともかくとして(笑)、
東京ローカル・ホンクは本当に優れたバンドであり、先日彼らが新たに試みた
「ホンク九重奏団」の演奏がとてもスリリングだったことをとにかく伝えたいので
す。

というわけで、もう一度こちらのテキストのほうをトップに持っていきます。
名声を得た(もしくはリジェンダリーな)音楽家のライヴに足を運ぶのもむろん
いいことです。

しかしまだ広く知られていない(だけど優れた)人たちの
音楽に触れるのはもっと良いことのはず。ビートルズがストーンズが最初から有名
だったでしょうか? あるいはシュガー・ベイブが最初から”伝説”だったでしょ
うか? そんなことはないですよね。音楽はいつの時代も”そこら辺のライブハウ
ス”に転がっているのですから。

*    *    *

東京ローカル・ホンクを吉祥寺のスターパインズ・カフェにて。

昨年秋から新作『さよならカーゴカルト』のレコ発全国ツアーを行ってきた
彼らは先月初めて東北地方も訪れ、今日がいよいよ東京での千秋楽と相成った。

第一部では普段着のホンクというか、フォーピース・バンドの粋を過不足なく聞かせ、
第二部ではホンク以外の5人の個性派ミュージシャンとのコラボレーションを試みる。
そんな意欲的なアプローチがうまく引き出された夜だったと思う。

歌の主人公たちの無名性(名もなき人々)を丁寧に映し出すという意味で、ホンクの
楽曲はどれを取っても互いに通じ合い響き合っている。「お散歩人生」でも「昼休み」
でも、町の何気ない描写「拡声器」でも、そこら辺のこだわりに関して木下弦二のソ
ングライティングは徹底していると言っていいだろう。そんな風にして僕たちは彼ら
の明るかったり脳天気だったりする歌の背後に、悲しみの表情や言葉にならない影を
感じ取っていく。

第二部はまるで音の粒子がキラキラと降り注いでくるようだった。

サーディンヘッドの小林武文、ヤセイ・コレクティヴの松下マサナオと中西道彦、
タマコウォルズの中原由貴、そしてラップ・スティールの名手である佐藤克彦という
名だたるミュージシャンたちを連れ出し合体したホンクは、いわばホンク九重奏団
という様相を呈しながら、ポリリズミックな音の波を大胆に作り出していく。

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(ホンク9のリハーサル。中央下より時計回りに新井健太、松下マサナオ、中原由貴、
田中クニオ、小林武文、佐藤克彦、井上文貴、中西道彦、木下弦二)
*このお写真は新井健太さんのblogよりお借りしました

一本のマイクを9人が円陣を組みながら囲み、まるでブルガリアン・ヴォイスのよう
な剥き出しの低音部の和声で聞かせていく二部冒頭のアカペラはどうだろう。
その輪唱が次第に広がり会場を満たしていく様はまさに息を飲むほど清冽だったし、
続く「自然ソング」ではあえてシンプルなビートに四人のドラマーが合わせることで
微妙なズレやユニゾンを醸し出す。

かと思えば、もともとアフリカ音楽の痕跡がある「泥男」ではスタジオ・レコーディ
ングにはないラップ的なコーラスを随所に配しながら、ブラック・ミュージックの
エッセンスを抽出する。そんなミニマル的な音の動きとしては「鏡の中」も聞きもの
だった。こちらはより高音のパートにフォーカスした音の流れがザイール音楽のよう。

四人もドラマーがいる。ベーシストが二人もいる。そんな彼らが同時に音を奏でた様子
を文章で伝えることはとても難しい。

ただそのダイナミズムは想像して頂けるはず。恐らくリハの段階から役割分担があった
のだろう。田中クニオと中原由貴が比較的ベーシックなパートを担い、小林武文と松下
マサナオが自由闊達なフィル・インに向かう土台を作っていたことはすごぶる印象的だ
った。これがドラムスの四人に対する感想だ。

そんなホンク九重奏団の奔放な演奏は終盤の長尺インプロヴィゼーション曲「カミナリ」
で極まった。
風の匂いを、不穏な気候を、あるいは自然の畏怖を彼らはスケッチし、一期一会の音の渦
へと転化していく。その様子のスリリングなこと!

控えめな詩人と遥かなる音の冒険者たち。

その詩人はツアー・ファイナルをけっして美辞麗句でまとめ上げたりはしないし、
音の冒険者たちは今夜の演奏に満足しながらも、明日はきっと別の絵を描き始めている
ことだろう。同じ絵にため息をつきながら、別のキャンバスに心を弾ませながら。

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削りに削られた簡素な歌詞の奥行きと、フォー・ピース編成ならではのバンド・
サウンドの妙味。たとえば以下のPVからそんなことを感じ取っていただければ、
ファンの一人として嬉しいです。


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by obinborn | 2012-03-26 03:29 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

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