ダニー・コーチマーは歌伴がダメなのか?

というわけで私はとくに歌伴ギタリストが好きなのだが、世の中には
「案外ダニー・コーチマーって歌伴がダメなんだよね。実は我が出る人なんで,,,」
(レココレ5月号p79より)と発言する大変残念な方もいらっしゃるのでした。

さすがイカ天の元審査員、米米クラブのプロデューサーさんは見る観点が違うなあ〜
とか、『スウィート・ベイビー・ジェイムズ』の短いレビューでドロップDチューニン
グ(学生さんだって知っとるワイ)を得意げに解説してくれた人は言うことが違うワイ、
とひとしきり感心したのですが(笑)、冗談はともかく、果たしてコーチマーは本当に
歌伴がダメなのか? まずはこの曲を聞いてから皆さんに判断して頂きましょう。



スクラーのフェンダー・ベース、カンケルのブラッシングとともにここでのクーチは
私の耳には完璧な歌伴として聞こえます。仮にH氏の発言がスティーヴ・ジョーダン
との近年のセッションなどを念頭に置いたものだとしても、フライング・マシーン
〜ザ・シティ〜ジョー・ママ〜ザ・セクションなどクーチのキャリアをちゃんと追って
いれば、こうした暴言は出てこないはず。それとも彼と私とでは”歌伴”の定義自体
が違うのでしょうか(爆)。確かにコーチマーの場合、いわゆる歌伴以外の部分では
かなりロックし弾きまくる(C&Nの「Love Work Out」などが典型。しかも同曲では
リンドレー、クロスビーとともに三つ巴だ)のだが、コーチマの中心はあくまでスタジ
オ・プレイヤーとしてのものであり、少なくとも「歌伴がダメ」ということにはならな
い。ダメなのはお前の頭のほうだろうが! クーチに関してテキトーなこと言われて、
テキトーなこと書かれて、この俺が黙っているとでも思ったら大きな間違いだぜ! 
そういえばいつだったか、レココレにくだらないライナーは一掃すべきだなんて
偉そうなこと書いていたよな。じゃあ、お前の書いたものは果たして一体どれだけ時代
に対する耐久性があるのかね?


あるいはフライング・マシーン時代のJT。ここでのクーチのさりげなさはどうだろう。
スプーンフル「つらい僕の心」でのヤノフスキーにも似たギターです。


この曲なんかも典型的な”歌伴”ギターですね。左チャンネルから聞こえるクーチの
オブリが美しい。


こちらは弾きまくるほうのクーチ。パーソネルにはクロスビーとともにwarpath
(戦う、ケンカ腰の)guitarと記載されている。

昔から機を見るに敏なだけのイヤな奴だと思っていたが、H氏に抗議したい。

追記:ここで文句を言うばかりじゃ何も始まらないので、先ほどレココレ編集部の方
に、「レターズ」として以下のメールを差し上げました。(小尾隆)

*     *     *


レコード・コレクターズ編集部さま

いつもお世話になっています。

『20世紀のギタリスト100人』特集を興味深く拝見しました。ランキング
という行為自体には否定的な意見もあると思うのですが、選者各自の嗜好や
審美眼が浮き彫りになったという意味で価値ある企画だったのではないでし
ょうか。私自身まだそのプレイを聞いたことがないギタリストも数人いたり
して、大いに刺激を受けました。

 ただ残念だったのは、対談の席で○○○○氏がダニー・コーチマーに関し
て「案外、歌伴がダメなんだよね。実は我が出る人なんで、、、」と発言さ
れていたことです。

 言うまでもなくコーチマー(通称クーチ)は、歌伴ギタリストとして70年
代初頭に頭角を現した人です。彼が所属したスタジオ・メン集団、ザ・セク
ションと歌手との関係は、まだまだスタジオ・ミュージシャンの意義が曖昧
だった時代に新鮮な空気を運び込んでいきました。たとえばジェイムズ・テ
イラーの「ノーバディ・バット・ユー」、たとえばジャクソン・ブラウンの
「ラヴ・ニーズ・ア・ハート」。それらの曲から汲み取れるのはまさに歌手
とぴったり息のあったクーチの控えめで的確な歌伴ギターなのです。

 仮に○○氏が弾きまくるクーチ(クロスビー&ナッシュ「ラヴ・ワーク・
アウト」や近年に於けるスティーヴ・ジョーダンとのセッション)を念頭に
置きながら言ったことだとしても、フライング・マシーンを皮切りに、ザ・
シティ、ジョー・ママそしてザ・セクションとキャリアを進めていったクー
チの仕事をトータルに見渡した場合、歌伴での彼こそが評価され信頼を勝ち
得てきたことは紛れもない事実でしょう。

 ○○氏がどういう文脈のなかで何を言いたいのかを私なりに察しようとも
しましたが、少なくとも「歌伴がダメなんだよね」に頷くクーチ・ファンは
いないと思います。ジェイムズ・テイラーの音楽に理解を示されている氏だ
けに、今回の発言は残念であり、また不用意なものとしてしか映りませんで
した。 

 *    *    *

その後、編集部から(少なくともフェアであり誠実であろうとする)お返事
を頂きましたので、ここにご報告致します。

いつもお世話になっております。
レコード・コレクターズ編集部の○○です。

ご連絡、貴重なご意見をお送りいただきましてありがとうございます。
編集部一同で「レターズ」をたしかに拝読させていただきました。

たしかに、私ごととしましては、キャロル・キングの曲やJTの曲に
おけるダニー・コーチマーの歌伴感覚のすばらしさに打ちのめされ、
大学生時代も何度かバンドで彼らの曲を演奏したことがありましたが、
とても真似などできるものではなく(そりゃそうですよね…)、歌に寄
り添うギターを弾く人としては、私の中では5本の指に入っている、
憧れのギタリストの一人です。


選者各自の嗜好、ということで言いますと確かに小尾さんにご指摘い
ただいたようにスティーヴ・ジョーダンとのセッションなどを念頭に
置いて発言されたことである可能性は高いと存じます。私が担当した
座談会ではなかったとはいえ、その場で、あるいはゲラの段階で編集
者としては、「読者に少しでも誤解を与えてしまうような表現」であ
るならば、それを回避するような形で誌面とする必要はあったのでは
ないか、と考えさせられました。「執筆者の嗜好」と「読者が誤解し
てしまうかもしれない表現」の境界線を判断するのはやはりなかなか
難しいところでもあるのですが、そうした細部に気を配っていくのも
編集の仕事であるかと思いますので今回いただいたご意見を元に、今
後はなるべくご指摘いただいたような部分にも気を配って雑誌作りを
進めていけるよう精進いたします。貴重なご意見をいただきまして、
まことにありがとうございました。
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by obinborn | 2012-05-01 08:19 | rock'n roll | Comments(2)  

Commented by ダニー(クーチ)コーチマー万歳! at 2012-11-01 08:17 x
小尾様 こんにちは
初めて訪問させていただきました
なかなか含蓄のある文章で、大変勉強になりました。
また、ダニークーチ氏に関しては小尾さんのおっしゃるとおりだと思います。
逆に、私は歌伴させたらNo1ではないかと
も思っています。
Nobody But Youもしかりですが
It's Too Lateのラストのカッティングや
Crosby&Nash「Live!」のFoolishManで聞ける凄まじいリードは、緊張感溢れCrosbyの歌を更に緊張感溢れるものにしており、まさしくクーチ氏でなけれ絶対に出来ない伴奏だと思います。
これからも奥の深い文章、楽しみにしています。頑張って下さい。
Commented by obinborn at 2012-11-01 12:14
読んで頂き、ありがとうございました!

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