ウェールズからやってきた男

さっきアマゾンのダグ・サームをチェックしていたら、めんたんぴん『LIVE!』が
ヒットして思わず大笑いしてしまったのだが、こういう愛嬌は悪くない。
それではエタ・ジェイムズを検索していてゲラント・ワトキンスに辿り着くかとい
うと、残念ながらそんなことはないのである。エタの持ち歌としてあまりに有名な
「At Last」を演奏しているんだけどね。

先日書いたようにゲラントといえば、パブ・ロック界の裏番長的な立ち位置という
イメージがすっかり浸透したと思う。初来日がデイヴ・エドモンズと一緒。次から
はニック・ロウ御一行とともに。そんなことからもすっかり親しまれてきたゲラント
だが、ルーツ・ライクなバラム・アリゲイターズの世界からはやや離れ、ここ数枚
のソロ・アルバムではすっかり枯れた、大人の味わいを醸し出すことに成功している。

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08年に発表されたこの最新ソロにしても、ニック・ロウの近作と歩調を合わせたかの
ような枯淡が心地好い。なかにはソウルⅡソウルばりのブリティッシュ・ソウル
「History」のように目一杯よそ行きの服を着ている曲もあるんだけど、それすらもお茶目
に映るという役得ぶりだし、全体としては無駄のない引き締まった本当の意味でのAOR
になっている。

そして注目したいのは「Fools Like Me」や「Jenni」でゲラントが自ら弾くギターだ。
鍵盤楽器のオーソリティである彼だが、たまに無骨なまでのギターをかき鳴らす
ステージでの姿を思い起こす方がいらっしゃるかもしれない。
ここでのギターがいいんだ! 本業以外の楽器を手にした時のぎこちない喜び。そんな
ニュアンスがひしひしと、ひたひたと伝わってくる。こういう小技が他の曲でギターを弾
くスティーヴ・ドネリーやマーティン・ベルモントといい対比を見せている。
他にもゲラントがギターを弾く曲はあるのだが、いわゆる”ヘタウマ”的なほっこり
感が一番良く表れているのが、この「Fools Like Me」や「Jenni」だと思う。

思えばパブ・ロックのメンタリティを演奏面から突き詰めて考えてみると、それは
上手過ぎず、されどしっかり演奏しろよ、という世界観に行き着くのではないだろうか。
これは単に個人の嗜好や好き嫌いの問題という以上に、その人がどういう場所で本当に
安らぐことが出来たり、どんな人たちと心からの笑みを交わせるのかという切実さにも
似ている。あるいは逆にその人がどういう世界が嫌いで、どんな営為に対して怒るのか
ということとしっかり結び目を作る。他の誰でもないその人の自画像を描き切る。

昔から女性の名前をタイトルに冠した歌にはいい曲が多いと言われる。それはきっと
思い入れという時にやっかいなものをストレートに投影しやすいからかもしれない。
そんなことを思いながら私は今ゲラントが俯き加減に歌う「Jenni」を聞き、
彼が弾くたどたどしいギターや、彼が辿ってきた長い道のりのことを考えている。
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by obinborn | 2012-05-03 14:03 | rock'n roll | Comments(2)  

Commented by 職務履歴 at 2012-10-25 16:28 x
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
Commented by obinborn at 2012-10-26 15:18
ご訪問ありがとうございます。10月からはFacebookとも同期させながら
展開していますので、ともどもよろしくお願いします。

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