昨日帰った家に今日はもう帰れない。

森絵都『おいで、一緒に行こう〜福島原発20キロ圏内のペットレスキュー』
(文藝春秋 2012年)を読了。サブ・タイトルにもあるように、当地で行方不明
になった犬や猫を探し出すボランティアへの同行取材記だ。

この緊急時に犬や猫のことなんてと思う人もいるかもしれないが、読み進めれば
犬や猫の足取りを辿ることが結局それを取り巻く家族の物語になっていることに
気がつくだろう。ここで何も森さんは即席な文明史論を打ち出すわけでも、声高にノー・
ニュークスと叫ぶわけでもないが、目線を四足動物へと落としているだけに伝わって
くるのは、人々のもう二度と戻らない日常のささやかな光景だったりする。

取材は(当初の計画から大きく逸脱して)およそ一年に及んだそうだが、スイッチが
入ると居ても立っても居られなくなる性分が彼女らしい。現地では警官による立ち入り
規制をはじめとするトラブルも頻繁だったらしいが、ありのままを包み隠さず、平易と
いうか、ざっくばらんな文体で書き留めている。

結果として行政の対応の鈍さや日本という国の隠蔽体質も浮かび上がってくるのだが、
それが本書の主旨ではあるまい(そういう本なら他にも沢山出ている)。私は少なくと
も森絵都という作家の理解者でありたいと願っている一人だが、かつて『つきのふね』
や『永遠の出口』を書いた彼女の奥底に流れるものを垣間見たような気がした。

ばらばらにされたもの。行き場がない思い。もう未来なんか永遠にやってこないという
諦観。そりゃそうだろう、犬も猫もそして人々も昨日帰った家に今日はもう帰れないの
だから。

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by obinborn | 2012-05-10 00:54 | one day i walk | Comments(2)  

Commented by Sally at 2012-05-10 11:44 x
小尾さんの書評を読んで、この本をすごく読みたくなりました。

置き去りにされたペットたちのことは気になっていたのですが、
(私も犬を飼っており、考えるまでもなく大切な家族の一員です)
正直、これまで訴えてきたことは人間様中心だったと思います。
市井の怒りを持って動いてきていたつもりが、恥ずかしい限りです。

「昨日帰った家に今日はもう帰れない」。悲しい言葉ですね。
早速、本屋を覗いてみます。ありがとうございました。
Commented by obinborn at 2012-05-10 12:15
Sallyさん、興味を示していただき嬉しいです。私の場合は書評と
いうより感想文やメモといった程度ですが、こうして反応してい
ただけると音楽以外のことも書いてきて良かったなと思います。
犬をお飼いになられているとのこと。犬はかわいいですね^0^
言葉を発さない代わりに行動がストレートで、守るという意識
もあるだけに愛おしいです。ちなみに著者は以前も屠殺犬の実態
をルポルタージュされた方ですが、シンプルな動機の強さみたい
なものを感じずにはいられません。

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