ボニー・レイットも22歳だった

72年2月のラジオ音源集『The Lost Broadcast』を毎日聞いている。

レイットにとってはワーナー・ブラザーズから最初の2枚のアルバムを発表した
ばかりの時期であり、そこの選曲を中心により音数の少ないシンプルな編成で聞かせ
るのだから古くからのファンにはたまらない。

トミー・ジョンソン、マディ・ウォーターズ、ロバート・ジョンソン、あるいは同性
としての敬意もあるだろうシッピー・ウォレスらの古いブルースを甦らせる一方で、
レイットはポール・シーベルやジャクソン・ブラウンといった彼女と同世代のソング
ライターの作品も取り上げる。そうした姿勢は今なお何ら変わることがない。自作曲
は少ないが、たとえばたまに「Thank You」などの隠れた佳作も披露する。

古い音楽の守り手、伝承者といったスタンスはデビュー当時からのもの。
だからこそ彼女は若さに寄りかかったり、若さを売りにするような音楽とは無縁であ
り続けた。看板となるボトルネック奏法の埃っぽさもそんなイメージを後押しした。
世の中の流行が何であれ、そんなことには関知しないとでも言いたげな毅然とした
態度。意思の表示。彼女のそんな部分はいつしか僕自身の音楽観にも影を落としていった。

それでもこの『The Lost Broadcast』でのレイットはまだ22歳だ。

一般的な若者であればまだまだ自分の未来図も描けないような時期ではないだろうか。
ところがこの時点から現在までレイットの道のりにはブレがまったくない。
むろん彼女の長いキャリアのなかでは大きな苦悩もあり長い低迷期もあったのだが、
この人は媚を売ったり、昨日の真実を今日は違うと嘘ぶいたりはたぶんしなかったのだ
ろう。聞き手にそう思わせるだけの芯の強さがまた魅力なのだが、このラジオ・ライヴ
での声はさすがに若々しく、初々しい。曲間に挟み込まれる何気ない笑い声なんか、
ケンブリッジ周辺の小生意気な娘といった風情であり、このラジオ番組がフィラデルフィ
アで行われたこともあって、アーチ・ベル&ザ・ドレルス「Tight'n Up」のサワリを演奏
するといった茶目っ気も見せる(実際のドレルズはヒューストンの出身だが、この曲は
言うまでもなくギャンブル&ハフによるフィーリーのシグマ・スタジオ)。

思いがけないプレゼントは2つある。ひとつはミシッシッピ・ジョン・ハートの「Rich
land Woman Blues」。もうひとつはスティーヴ・ウィンウッドの「Can't Find My Way
Home」だ。ともにレイットの(ボトルネックではなく)フィンガー・ピッキングが聞ける
点も嬉しいのだが、それ以上に素晴らしいのはこの2曲の間に時代という隔たりを感じさ
せないこと。まさにそれこそは歌の解釈者としてのボニー・レイットの指標であり、彼女
が歌う理由であるだろうから。

「帰るべき家が見つからない」それはブルーズ的な常套句であり、人生という名の暗喩で
もあろう。そして大変厳しいことに、2012年の日本の現実ともなってしまった。

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by obinborn | 2012-07-09 02:44 | one day i walk | Comments(2)  

Commented by BROWN SUGAR at 2012-07-09 11:45 x
obinさん、このBonnieのCD何なのかなぁ、と気になってました。
ご存知かもしれませんが、このCDの数ヶ月後の録音('72年10月)の下記リンク先音源をここ最近入手してよく聴いてます♪
Lowell George、Freebo(とJohn Hammond)とのスタジオ・セッションです。
http://archive.org/details/bonnieraitt1972-10-17lowellgeorge_johnhammond-wlir
ここでも、Blind Faith曲を演奏していて、コレがイイんですよね~!
Commented by obinborn at 2012-07-09 11:57
ライやオールマンの発掘音源も最近出してるleftfieldmediaという
ブート?レーベルのものですが、音質の問題は大丈夫!です。10月
の音源は知りませんでしたが、ローウェルとのCan't Find〜はユー
チューにも上がっていました。教えて頂きありがとうございます!

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