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言葉に絡めとられない柔らかな心持ち

報告がやや遅くなってしまったが、9月1日に十条のシネ・カフェ・ソト
で行われた青山陽一と千ヶ崎学のデュオ・ライヴは素晴らしかった。この
二人はthe BM'sとは別にアコースティック・ライヴを時折行っているが、
私としては初めての体験。そういえばウッド・ベースが鳴っているのを至
近距離で聞くのも久し振りだったけれども、普段のバンド編成による手に
汗握る丁々発止とはまた違う、寛いだ雰囲気が次第に会場を満たしていっ
た。昨年の秋にリリースされた青山の新作『Blues For Tomato』からの
曲を中心に、「Are Domo」「Thunderbolt」「三日月」「月曜のバラッ
ド」など懐かしいナンバーも程よく織り交ぜた構成は、千ヶ崎学のときに
弓弾きを交えた”黙して語る”ベースに底辺を支えられながら、青山の楽曲
の良さを改めて浮き彫りにしていったと思う。

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もともと一曲のなかで起承転結を強調したり、言葉の意味性に寄りかかっ
たりするタイプのソングライターではない。それよりも感覚的というか、
抽象化された断片を浮遊したり旋回していくメロディへと結びつけるのが
青山は抜群に上手い。この夜に演奏された最新作からの曲で言えば、リズ
ムの場面転換が心憎い「お花見ブルー」や、変拍子を重ねて広がりをどん
どん増していく「炎とは何のことか」など、歌詞の一言一言を拾い上げて
想像を膨らませていけばかなりシリアスな内容とも受け取れるのだが、そ
れを拳を振り上げて表現するのではなく、立ちこめる”気配”として彼はそ
っと描写する。そんな意味ではどうしようもない疲弊が漂う「25時」にし
ても、紋切り型の常套句を徹底して迂回するという潔さ。それ故に聞き手
は歌に登場する中学生や初老の男といった人物を自由にイメージすること
が出来る。そう、語られたものだけが本当のことではないとでも言いたげ
に。

青山のライヴではもうひとつのお楽しみとなるカヴァー曲では、ザ・バン
ド「Ophelia」とスティーヴ・ウィンウッドの「Can't Find My Way Ho
me」そして懐かしいテレビ主題歌から「マイティジャックの歌」が今回
選ばれた。とくに「Ophelia」ではゲストの中原由貴がシェイカーととも
に可憐な歌声を届けるなど、the BM's〜タマコウォルズのファンにはた
まらない瞬間もあった。けっして過剰なメリスマを付けるのではなく、あ
くまで自然な情感を込めるムーさんに好感を抱く方々も少なくないはず。
そしてこの人にはいつも陽性の響きがある。

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あれはある夏の日だった。その青年は「夕闇におけるクロール」を自由詞と
鮮やかなメロディで歌っていた。「On The Dunes」では夏という言葉を
使わずに移ろいゆく季節を音でスケッチしていた。あれから早くも10数年。
彼のキャリアから数えれば27年くらいの歳月が流れたものの、意味にから
め取られまいとする柔らかな心持ちとか、どこか内気なのではと思わせる
その表情はずっと変わらない。私やあなたはきっと明日も青山陽一に新し
く出会うことだろう。

*(お写真は青山さんのウェブサイトからお借り致しました)

by obinborn | 2012-09-09 13:09 | 青山陽一theBM's | Comments(0)  

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