中尾紀久子展に行ってきた

歌い出した途端に、「ああ、この人にはかなわないなあ〜」と思う。
小手先のテクニックではなく気持ちをまるごと持っていかれてしまう無骨な匂い。
それが飯田雄一という人である。
永遠の野生児ともいうべきこの男が歌うヴァン・モリソンの「Have I Told You
Lately」などを聞くと、傷だらけの男の半生を目のまえに差し出されたような
気がして、思わず胸がざわついてしまう。

そんな飯田雄一さんをフロントにして活躍してきたのがオレンジ・カウンティ・
ブラザーズだ。ダグ・サームへの敬愛を道筋に”歩くまえに走り始めてしまった”
ようなバンドだったが、ゴツゴツとしたテックス・メックス・サウンドや、思わず
ほろりと零れてくるざらついた情感が私は好きだった。久保田麻琴と夕焼け楽団
と70年代にジョイント・ライヴを行っていたこともあって、兄弟のようなバンド
どうしだったといった印象が強い。

そんな彼らのアルバム4枚のイラストをすべて手掛けられたのが中尾紀久子さんだ。
彼女の個展が神宮前で行われていたので、10月1日の最終日にお伺いした。

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実際76年の『ファースト』のアルマジロにしても、77年の名作『ソープ・クリーク
・サルーン』に映る飯田雄一と思しき人物にしても、初めて見る原画ではよりきめ
細かく筆が運ばれていてちょっと感激。そして原画のほうがより落ち着いたトーン
で統一されていたことにも何だか不思議な感慨を覚えた。

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会場に入るやいなやオレンジのギタリスト、中尾淳乙さんが声を掛けてくれて
紀久子さんを交えてしばし談笑させて頂いたのだが、原画をジャケットにする
時点で作者の思惑とは別にトリミングされてしまった部分もあったそう。

そんなこんなで絵や近況を伺っていると、私より少し年上の兄貴たちと話して
いるような気分になる。実際そのようにしてオレンジ・カウンティは慕われて
きたし、ザディコキックスやコスモポリタン・カウボーイズといった優れた理解者
たちを生み出しながら今日に至っているのだった。

話は最近の飯田雄一に戻る。この春に横浜のサムズで行われたステージの序盤で
彼はキックスを従えながらダグ・サームの「Beautiful Texas Sunrise」を歌った。
何も変わっていない。しかもこういう首尾一貫をことさら自慢したりしないどこ
ろか、この男はいささかの照れ笑いを見せる。とことん陽気な主人公たちや酒場の
賑わいなど、絵に描いたようなテキサスの光景を歌い込んでいくわりに、脆さも
ある。そんな微妙なニュアンスを含めて私はオレンジ・カウンティが好きなのだ。
そして無冠の帝王たちにはでっかい夕陽がとてもよく似合う。

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by obinborn | 2012-10-02 09:30 | one day i walk | Comments(0)  

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