surf's up

クーラーが止まる。扇風機が止まる。蝉の代わりにこうろぎ
が鳴き出す。そのようにして暑かった夏はある日突然終わっ
てしまった。多くの人々にとってこの季節が特別なのは、き
っと子供の頃の夏休みの記憶と分ち難く結び付いているから
なのだろう。ぼくも小学生の頃はよく両親の実家がある長野
県の諏訪へ遊びに行き、空の高さやきりりとした水の鮮度に
驚いた記憶がある。

ある意味そんな若さや無邪気さのメタファーが夏なのだろう。
それを65年までのビーチ・ボーイズに譬えてみるのも悪くな
い。好むと好まざると人は大人になり、たとえ嫌なことでも、
たとえ好きになれないことでも、社会に出れば引き受けざる
を得なくなる。

ビーチ・ボーイズが71年に残した『Surf's Up』は、そんな
苦々しさが詰まった作品だ。感傷的な「Disney Girls」には
副題として(1957)と記され、アメリカが無邪気だった頃の
追想となっているし、アルバム全体にも快活さは失われ、そ
の代わりに諦観がひたひたと染み込んでいる。ブライアン・
ウィルソンの60年代の曲に「In My Room」というひどく内
気な曲があったけれども、あの曲と同じように、浜辺で戯れ
ている若いカップルを窓越しから遠巻きに眺めているような、
そんな距離感があまりに切ない。

とくにB面終盤の「ぼくが死ぬまで Till I Die」がアルバム
表題曲の「Surf's Up」へと繋がっていく際の、波に自分が
呑み込まれていくようなイメージは、ぼくにとっては映画
『帰郷』のラスト・シーンと重なり合うほど。

ヴェトナム戦争から帰還した青年が、恋人の不実を知り、
そのことから入水自殺してしまう。そこに使われたティム
・バックリーの「Once I Was」と『Surf's Up』が重なり
合いながら、夏はある日突然終わりを告げる。

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*facebookのほうに書いた11日の文章を転載しました。
あしからずご了承ください(小尾)。
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by obinborn | 2012-10-12 02:32 | one day i walk | Comments(0)  

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