日向ぼっこが俺の趣味
ぼくはとくに70年代のRCAレコーズ時代に思い
入れがあります。73年の『Preservation Act 1』
もすごく好きな一枚です。以前Pye時代に作った
傑作『村の緑を守る会』から発展したこの演劇シ
リーズの内容を簡単に説明すると、腹黒い政治
屋や資本家が村の自然を脅かすことと、それに
反対する人々の物語なのですが、『Act 2』へ
と続くこの大河ドラマには、魑魅魍魎もあれば
人々のちょっとした機微もあるといった具合で、
弱い者たちに向けられたレイ・デイヴィスの優
しさや権力への反骨精神、皮肉やユーモアが随
所に散りばめられています。
そんななかにふと置かれた「Sitting In The Mi
dday Sun」はかつて「日向ぼっこが俺の趣味」
という邦題が付けられていた通り、駄目男がぼ
んやりと日中を過ごす何とも牧歌的なナンバー
で、確かシングル盤も出ていました。
「人々は俺のことを怠惰だという。きちんと仕
事を見つけなさいとね。でも俺はこうやって日
溜まりにくるまれているのが好きなのさ、川の
ほとりに寝そべってね」といった上昇志向のか
けらもない歌詞が、暗に平穏な日々が金もうけ
しか考えていない資本家に奪われてしまうこと
を仄めかしているのですが、以前の「ウォータ
ルーの夕陽」にも通じる情けない男が描かれて
います。
歌詞のなかにはちょっとした引用も含まれてい
て、Looking Their Best In Their Summer Dre
ssesというくだりは、お気付きの方も多いと思い
ますが、アーウィン・ショウの短編小説『夏服
を着た女たち』から来ているのだと思います。
「見てごらん、夏服を着た女たちが通り過ぎて
いくよ。俺っちはお天道様を浴びながらぼんや
りと眺めているのさ」といった感じかな。
まるで元祖モラトリアム人間のための歌ですが、
レイ・デイヴィスの鼻ずまりの情けない歌声と
ぴったり合っていて、出世や権力志向剥き出し
の人間が苦手なぼくにとっては、まるで福音の
ような曲なのです。
今日先に書いた「Small Town Talk」のテキスト
ではないですが、ぼくも自分の町で日中からぼ
んやりと通りを歩くことがあり、たまに馴染み
の商店街の人と挨拶を交わすのですが、案外
「あの人、一体仕事をしているのかしら?」な
んて思われているかもしれませんね(苦笑)。
それはともかく、この『プリザヴェイション』
シリーズには今の時代にも通じるシニカルさ、
暗喩めいた予言、失ってから初めて気がつく感
情などなどが込められています。
ああ、ぼくの住んでいる町も個人経営の美味し
い中華料理店や、趣味のいい輸入レコード屋さ
んがいつの間にか無くなってしまったなあ。
チェーン・レストランやコイン・パーキング
ばかりが目立つようになってしまったなあ。
by obinborn | 2012-10-16 00:47 | rock'n roll | Comments(2)