秘めやかな英雄の物語

 やや紹介が遅くなってしまったが、タージ
・マハールの発掘音源集『The Hidden Treasu
res 1969-1973』について触れておきたい。
今年もダン・ペンやジョージ・ジャクソンの
フェイム吹き込みを始めとして、興味深い貴
重音源の蔵出しが為されたが、タージの本作
もまた大いに称えられるべきものだ。

 タージといえばロック・ファンにとっては
ローリング・ストーンズが68年の暮れに主宰
した『ロックンロール・サーカス』に出演し
たことで広く知られることになった人だが、
本作はさながらライジング・サンズ解散後に
ソロ・デビューしてから数年の彼を映し出し
たタージの裏面史とも言えよう。

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 未発表スタジオ音源と70年の4月にロンド
ンのロイヤル・アルバート・ホールで行われ
たライヴ録音の2枚組から成るこのCDだが、
一番強烈に感じるのはやはりタージのヴォー
カルの味わいだ。アフロ=アメリカンならで
はのコクのある彼の声は先の『ロックンロー
ル・サーカス』でも実証済みだが、オーティ
ス・レディングやトゥーツ・ヒバート並みに
”Got A Got A~"と囃し立てたり、自ら効果
的にハンド・クラッピングを交えながら歌う
躍動感がたまらない。そうしたヴォーカルを
リゾネイター(共鳴盤付きの鉄製アコーステ
ィック・ギター)のちょっと乾いた音色を伴
いながらさらっと弾き語ったり、ときにブル
ーズ・ハープを吹き加えたりするのがタージ
のベイシックな持ち味だ。

 のちに全開となるカリブ海音楽への志向性
はまだこの時点では伺えず、その音楽はブル
ーズのフォーマットを踏襲したものが多いに
もかかわらず、ディランの「I Pity The Poor
Immigrant」に違うメロディを付ける着想も
面白いし、主にブルーグラスのレパートリー
となる「Shady Grove」やフォスターが採集
したとされる「Oh Susanna」のアレンジに
気を利かせるなど才気が迸る。そこにジェシ
・エド・ディヴィスやジョン・ホールといっ
たタージ・バンド歴代のギタリストたちが彩
りを加えていくのだから、たまらない。

 ジェシに関しては彼の看板となるスライド
・ギターは殆ど聞かれないものの、指弾きで
も独特の”間”を活かした粘っこいフレーズを
連発しているところがミソ! ジム・ディキ
ンソンを始めとするディキシー・フライヤー
ズの面々とフロリダのクライテリア・スタジ
オ(通称サウス・アトランティック)で相塗
れたセッションも悪くないが、何といっても
ディスク2のライヴではほとんど丸ごと若き
日のジェシのプレイを堪能出来るという贅沢
さ。とくにアンドレ・ウィリアムズのオリジ
ナル曲であり、サー・ダグラス・クィンテッ
トやジェシ・エド自身もカヴァー・ヴァージ
ョンを残した「Bacon Fat」の素晴らしさは
どうだろう。ここでの演奏はテンポをかなり
スロー・ダウンさせているのだが、それ故に
じっくりとジェシの温かみのあるギターが染
み渡っていく。トリッキーな押し出しではな
く、あくまで淡々と丁寧にタメのあるフレー
ズを紡いでいく姿が何とも彼らしくて気持ち
が自然と高ぶる。彼得意のレズリー・スピー
カ・サウンドが随所に聞き出せる点も嬉しい。

 何でもミック・ジャガーは67年にロスア
ンジェルスへ遊びに行った時、彼の地のウィ
スキー・ア・ゴー・ゴーに出演していたター
ジを聞いて夢中になり、『ロックンロール・
サーカス』への出演を口説いたと伝えられて
いる(『サーカス』に付属のデヴィッド・ダ
ルトンのライナーノーツによる)。そんなタ
ージがやがてストーンズと共演したことでも
知られるガーナ出身のロッキー・ディジュー
ンや、ウェイラーズのアール・リンドをバン
ドに加えていったことも、アフロ=アメリカ
ンとしての彼の旅の始まりを物語るかのよう
だ。

 思えばブラック・ミュージックへの意識的
な取り組みという点でベン・ハーパーやケブ・
モといった人たちの先駆とも言うべき存在が
タージであった。そう、この『The Hidden
Treasures 1969-1973』はそんな彼が大きく
羽ばたいていく前夜を捉えた貴重なドキュメ
ントであり、終ぞこれまで語られることがな
かった秘めやかな英雄の物語なのである。

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by obinborn | 2012-11-20 20:12 | blues with me | Comments(0)  

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