Hard Life Rockin' Chair

赤坂真理の『東京プリズン』を読んでいて本編の内容
とは別に感心したのが、「アメリカ人は広さによって
閉じ込められている」といった旨の風景描写だった。
それが作者自身の留学体験に基ずくものかどうかはと
もかく、果てしなく続く広大な大地とは開放感という
よりはむしろ孤独をもたらすのだな、としみじみ感じ
入ってしまった。

アメリカのフォーク・シンガーはウディ・ガスリーの
昔から汽車に乗り、綿畑を眺め、駅から駅へと彷徨う
旅を歌にしてきたけれど、そうした移動願望の根っこ
にあるのは同じ土地に閉じ込められているという行き
場のなさの裏返しなのかもしれない。ぼく個人として
はデイヴ・アルヴィンの「台所のテーブルから From
Kitchen Table」という歌が、恋人とともに他の町へ
と旅立つことの出来なかった若き日の懺悔に満ちてい
て妙に印象に残っている。日曜日の夜に過去を振り返
りながら一人の中年男がそっとビールを飲むというこ
の歌の孤独感には押し潰されそうなくらいだ。

ポール・ジェレミアもまた放浪の歌を数多く歌い、彼
本人も町から町へと移動しながらライヴ活動していく
ことを生活の糧として選び取った人だ。この73年作に
もブルーズに着想を得たオリジナル曲が多くを占めて
いる。アルバム表題曲の「Hard Life Rockin' Chair」
に至っては裏ジャケットに歌詞が印刷されているほど
なのだが、「ぼくは旅人だけど、どうか怖がらないで」
と、自分と相手との距離を計りかねている様子が伝わ
ってくる。だいたい「困難な人生 Hard Life」と「楽
椅子 Rockin' Chair」とを掛け合わせた曲タイトル自
体が相反する二つの感情を仄めかしているではないか。

ここにはジェリー・ロール・モートンのジャズもあれ
ば、ビッグ・ビル・ブルーンジーやアーサー・ブレイ
クの軽快なラグもカヴァーされ束の間の安息を物語っ
ているが、フォークウェイズ録音に続く再吹き込みと
なる自作「I'll Be Gone」の孤独は、旅する人ならでは
のものだろう。ジェレミアもまたアメリカの広さに半
ば閉じ込められつつ、それに逆らおうとしているのだ
ろうか。

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by obinborn | 2012-11-23 16:37 | blues with me | Comments(0)  

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