Irish Heartbeat

現在来日中のチーフタンズ。先日の渋谷公演はライヴ
の予定が他と被ってしまったので行けなかったのだが、
アイルランドの音楽を幅広く紹介した功績は勿論、他
ジャンルとの異種セッションにも意欲的にアプローチ
してきた姿勢も大いに評価したい。

そんな彼らがヴァン・モリソンと手を携えた88年の『
Irish Heartbeat』も、ヴァンのなかに眠っていたアイ
リッシュの血を目覚めさせた忘れ難い佳作だ。フィド
ルやフルートはむろんユーリアン・パイプやティン・
ホウィッスルといった楽器が重なり合いながら、ヴァ
ンの背中を押し上げていく演奏は素晴らしいの一言で
あり、のちの彼の歩みを確かなものにしたという意味
でも、一里塚のような作品だったように思う。

91年の壮大な『Hymn To The Silence』のなかでもチ
ーフタンズの力を借りてドン・ギブソンの「愛さずに
はいられない I Can't Stop Loving You」を鮮やかに
染め上げていたけれども、恐らくレイ・チャールズの
ヴァージョンでこの歌に親しんだであろうヴァンが、
ソウルフルな喉を通常のR&Bコンボ風にではなく、チ
ーフタンズとともに響かせるちょっとしたアイディア
が、とかく手垢に塗れがちなこの名曲に新鮮な息吹を
与えている。

むろん以降のヴァンの歩みが全面的にアイリッシュネ
ス剥き出しになっていったということではない。とい
うよりもここで一度故郷に立ち返ったからこそ、くっ
きりと見渡せる光景があったのだと信じたい。腹八分
に抑えた歌唱やふっきれた表情から音楽する心が以前
よりもストレートに伝わってくる近年の作品群を耳に
していると、ふと、そんなことを思わずにはいられな
い。

個人的にはヴァンであればもっと好きなアルバムは他
にも沢山ある。そんな蘊蓄のあれこれを語り合うのも
楽しいだろう。それでもひどく真面目に自らに流れる
血と向き合ったこの『Irish Heartbeat』に、ヴァンの
心の流れのようなものを感じ取るのも無駄ではないは
ず。全10曲。そのどれもが気持ちが入り込んだものだ。
とりわけ寒さに震えながら大事なものを噛み締めてい
くような「Raglan Road」と、雄大な流れに身を委ね
たくなる「Celtic Ray」を聞き終えた時に訪れる静寂
は、ぼくに浄化という言葉を思い起こさせた。

e0199046_1638346.jpg

[PR]

by obinborn | 2012-11-24 16:38 | one day i walk | Comments(2)  

Commented by ちーくん at 2012-11-25 21:23 x
小尾さん
チーフタンズの東京公演・渋谷オーチャードホールに行ってきました。私自身、生のチーフタンズは初めてでしたが、楽しく観る事ができました。結成50周年イベントということでゲスト出演も多く、純粋に彼ら単独の演奏を堪能する内容ではなかったと思いますが、とても温かい気持ちで友人と一杯やってから家路につきました。
Commented by obinborn at 2012-11-25 21:34
ちーくん、チーフタンズを観れて良かったです。ぼくは未だ未体験なので
レコードやCDで想像するだけですが、きっと素晴らしいものだったでしょう。そしていつも、良いライヴのあとの祝杯はいいよね。

<< Squeezebox Night ルイジアナ・バイユーの夜は更けて >>