63歳の肖像

ニック・ロウは今年の3月、63歳になった。その
ニュースを聞いた時はさすがにぐっと込み上げて
くる気持ちがあった。

思えばぼくが物心付いた?二十歳の頃からおよそ
10年年上の先輩のようなニックを聞いてきたのだ
からもう長い付き合いになるけど、その時その時
で彼は様々な表情を見せてくれた。若く血気盛ん
な時代から人生の機微を感じさせるようになった
近年まで、そのひとつひとつの歩みに感じ入って
きた。ストレートな愛とやら平和とやらに茶々を
入れまくっていた若いニックの気持ちを理解出来
た。素直になれない気持ち。屈折した心情。そん
な彼に影を落としていたのは、言うまでもなく、
ヒッピーズ・ドリーム〜ウッドストック世代に対
する言い知れぬ幻滅だっただろう。

e0199046_21131372.jpg

(79年の6月にリリースされたセカンド・ソロのインナー・
スリーヴ。この時点でニックはまだ30歳になったばかりだ
った)



世代としてはニックがポール・マッカートニーの
7つ下ということで、何となくその距離感を解っ
て頂けるだろうか。そんなニックが結果としてパ
ンク〜ニューウェイヴ時代の水先案内人となった
こともまた必然だったと思う。逆に言えばニック
はヒッピーにもパンクスにもなれなかった分岐点
的な世代に属していたのかもしれないけれど。

そんな屈折した過去を持つ彼が、今や普通の人々
の暮らしを歌う。近所のどこにでもいそうな彼や
彼女の光となり影となりながら、彼らの心情に寄
り添う。そのことをぼくはとても尊く思う。

2011年の秋にリリースされた『The Old Magic』
は、そんなニックの一番新しい日誌であり報告記
だ。どこか自嘲しながら”そのくたびれた魔法”と
いうアルバム表題を付けることに彼らしい視線の
落とし方を感じる。そう、ニック・ロウもまた音
楽というマジックに囚われてしまった愛すべき人
なのだった。

それにしても「売り家あり House For Sale」の
蒼茫感や苦みはどうだろう。”ぼくはもうこの家
を出ていくよ、ヴァンが来て荷物を持っていくの
さ。ぼくは『平和と愛と理解の何が一体おかしい
んだい? (What's So Funny 'bout )Peace Lov
e And Understanding』の歌を歌いながら去って
いくんだ”

かつて直裁な表現にどこまでも衒いを見せた男が
ようやく辿り着いた赤裸々な心情吐露。この歌を
聞いた時、ぼくはニック・ロウというちょっとし
た先輩のことを、より愛おしく思った。

e0199046_21101526.jpg

[PR]

by obinborn | 2012-11-30 21:05 | one day i walk | Comments(0)  

<< 8トラック・レコーダーが回されていた イアン・デューリーの置き手紙 >>