アラバマ・ボーイの軌跡

「フローレンスのスタジオには最初から
いた。私がまだ15歳の時だ。ダン・ぺン
やスープナー・オールダムも一緒だった。
ダン・ペンが導いてきた功績を誇らしく
思うよ。誰もが啓発された南部シーンの
ことも私の名誉だ。何故ならアラバマ州
のこんな小さな町で勝ち目があるなんて
当時はまったく思っていなかったからね。
そう、このスモール・タウンは多くの才
能を生み出したんだ」

そう語るのはマスル・ショールズ地区を
中心に活躍してきたシンガー・ソングラ
イター、ドニー・フリッツだ。実際ドニ
ーが言うように、60年代の始めに建てら
れた小さなフェイム・スタジオの写真か
ら、のちにサザーン・ソウルの聖地とし
て語り継がれることを想像するのはむず
かしい。最初は何でもドラッグストアの
二階を改造して作ったスタジオだと伝え
られている。

そんなフェイム・スタジオを根城にソン
グライター・コンビを組み、数々の名曲
を提供してきたのがダン・ペンとスープ
ナー・オールダムの二人である。主にダ
ンが歌いギターを弾き、スープナーがピ
アノやオルガンを担当しながら曲を作っ
ていった。ちなみに99年の秋に二人が
来日した際、小倉エージ氏が行ったイン
タヴューでは、どちらか一方が作詞や作
曲を担当するといった分担ではなく、あ
くまで”俺たち”が一緒に曲を作るのだと
語っている。そこに伺える頑固な職人気
質もまた大変興味深い。

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英Aceレコードがダン・ペンのフェイム
録音集をリリースすると聞いた時、ぼく
はてっきりデモ録音というか、出来上が
った曲を歌手に聞かせるための仮歌を寄
せ集めた内容なのかなと勝手ながら思っ
ていたのだが、この『The Fame Recor
dings』の完成度には心底驚かされた。
バックの演奏は本格的だし、ダンのヴォ
ーカルにも味がある。むろんソウル・シ
ンガー独特のディープな歌唱や激烈なシ
ャウトという訳にはいかないが、ソング
ライター・ヴォイスとでも言うのだろう
か、温かさがじわりじわりと押し寄せて
くるような飾らない歌声が何とも魅力的
に響く。CDの惹句として「誰もダン・ペ
ンのようには歌えない」というフレーズ
が添えられているが、それもあながち大
袈裟なものではないと実感させられる。

オーティス・レディングの「You Left
Me Water Running」ローラ・リーの
「Uptight Good Woman」アーサー・
アレクサンダーの「Rainbow Load」
オベイションズの「I'm Living Good」
ジェイムズ&ボビー・ピューリファイ
の「恋のあやつり人形 I'm Your Pupp
et」など、おなじみの名曲の作者版が
このCDには全24曲収録されているの
だが、こうしてまとめてダンのソング
ライター・ヴォイスを耳に出来る喜び
はとてつもなく大きい。ソロモン・バ
ークで知られる「Take Me(Just As I
Am)」のダン・ペン版は65年にフェイ
ム・レーベルからシングル盤が発売さ
れたというが、その曲以外のテープは
すべて未発表のままスタジオに眠り続
けていたというのだから、アレック・
パラオ、トニー・ローレンス、そして
ディーン・ラドランドの三人から成る
リサーチ・チームの尽力に感謝せずに
はいられない。

ダン・ペンと言うとまず初のソロ・ア
ルバムとなる73年の『Nobody's Foo
l』が語り草になっている。その最後に
収録されていた「Skin」というモノロ
ーグ調の歌は、文字通り皮膚の色を主
題にして人種間の軋轢を問い掛けたも
のであり、あの優れたピーター・グラ
ルニックも著書『Sweet Soul Music』
で引用しているほどだが、人種間の亀
裂がとくに生々しかった60年代のアラ
バマでブラック・ピープルのために曲
を書いていたダンにとっては、とくに
のっぴきならない事態だったに違いな
い。

冒頭に発言を引用させて頂いたドニー・
フリッツにしても、09年の秋に来日し
た際「当然ながら人種差別はあった。
でもたとえばバーミンガムのように本
当に差別がひどい都市よりはマスル・
ショールズはましだった。私は16歳の
時に(黒人の)アーサー・アレクサン
ダーと出会い一緒に演奏を始めた。ま
るで兄弟のようだった。でもそのこと
を快く思わない奴らもいた。でも、そ
れが何なんだ!という気持ちだったよ」
と筆者に語ってくれたことがある。

そうした背景を考慮しながらこの『The
Fame Recordings』を聞き進めていく
と、何とも言えない感慨が湧いてくる。
そう、本作はダン・ペンというアラバマ
・ボーイの成長物語であり、フローレン
スというスモール・タウンから大きく羽
ばたいていったソウル・ミュージックの
傷だらけの歴史であり、かけがえのない
栄光の軌跡なのだった。

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by obinborn | 2012-12-02 09:46 | one day i walk | Comments(0)  

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