オールマン兄弟が刻んでいった足跡

 実に久し振りにオールマンのファースト
が我が家へと戻ってきた。もう隅々まで頭
に入っている音群だし、LPであれCDであれ
いつでも買おうと思えば入手出来る定番ア
イテムではあるけれど、細胞に染み入るほ
ど慣れ親しんだサウンドがジャケットとい
う”絵”を伴って帰ってくるのは、やはり嬉
しいものだ。

 この『ファースト』に収録されている「
腹黒い女 Black Hearted Woman」をラジ
オで初めて聞いた時の衝撃は今も忘れられ
ない。スワンプ・ロックとかサザーン・ロ
ックという言葉もまだ知らなかった中学生
の頃の体験だった。それまで耳に馴染んで
いたポップスの綺麗なメロディとは明らか
に異質の、禍々しいまでに泥臭いサウンド
が部屋へといきなり飛び込んできたのだか
ら、それは鮮烈な出会いだった。

 69年の春頃にリリースされたレコードだ
が、今聞き直してみても少しも色褪せてい
ないどころか、逆に現在の耳だから気が付
くことも少なくない。それはグレッグ・オ
ールマンのまるでボビー”ブルー”ブランド
が乗り移ったような粘っこいヴォーカルで
あったり、アメリカ南部のグループであり
ながらも英国のブルーズ・ロックのダーク
な質感を感じさせる点だったりする。何し
ろアルバム冒頭の「もう欲しくない Don't
Want You No More」からしてスティーヴ
ィー・ウィンウッド脱退後のスペンサー・
ディヴィス・グループのインスト曲なのだ
から、いきなりの変化球にちょっと驚く。

 それでも同曲のエンディングと折り重な
ってサザーン・ソウル・バラードのような
「It's Not My Cross To Bear」が始まる
頃には思いっきりミシシッピの泥水を浴び
ているような錯覚に陥るのだから、そのサ
ウンド描写はとても劇的だ。さらにツイン
・ギターやツイン・ドラムス(もしくはパ
ーカッション)体制を誇示するが如くの「
腹黒い女」へと連なっていくのだからたま
らないし、音楽的な故郷に関しては次のマ
ディ・ウォーターズ「Trouble No More」
で密かに告白されるのだった。

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 ジョージア州メイコン出身のバンドなが
ら、この時点ではレコーディング・ロケー
ションのため、ニューヨークのアトランテ
ィック・スタジオまで旅立っていることも
面白い。これはオールマンズのためにキャ
プリコーン・レーベルを設立したフィル・
ウォルデン(かつてオーティス・レディン
グのマネージメントを担当していた)が、
アトランティックの出資を受けていたこと
とも関係するのだが、南部のR&B~ソウ
ル・シーンに尽力したアーメット・アーデ
ィガンやジェリー・ウェクスラーが激しく
揺れ動いていく時代のなかでスワンプ・ロ
ックに活路を求めていった軌跡をも克明に
伝えるエピソードだと思う。そういえば、
ウィルソン・ピケットやアリーサ・フラン
クリンといったソウル・シンガーの録音に
デュエイン・オールマンのギターを積極的
に登用していったのも、ひとえにジェリー
・ウェクスラーの功績だろう。

 日本盤がワーナー・パイオニアからビク
ター音楽産業の配給へと移行された時点で
何故かカットされてしまった「It's Not My
Cross To Bear」エンディング部でのフリ
ーキなノイズも、このP-8138A盤ではむろ
んしっかりと聞き出せる。そんなことひと
つひとつをまるで古傷のように思い出させ
ていくアルバムではあるけれど、まだ何も
知らない高校生だったぼくを南部という豊
かな土地へと連れ立ってくれたという意味
でも忘れられない作品だ。

 豪放磊落なデュエイン・オールマンのギ
ターが指弾きに、スライド・ギターに全身
全霊を傾けている。それに応えるように彼
の弟がどこまでもソウルフルな歌声を轟か
せてゆく。

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by obinborn | 2012-12-02 20:19 | blues with me | Comments(0)  

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