陽のあたる通りで

 やや唐突とも思えるタイミングでヴァン
・モリソンのライヴ音源がリリースされた。
それが『Live At The Capitol Theatre』。
79年の10月6日にニュージャージー州の
パサィックにあるキャピトル・シアターで
行われたライヴがCD2枚に亘って収録さ
れている。この会場といえばグレッグ・オ
ールマンの『On Tour』が録音されたこと
などを真っ先に思い出してしまうが、それ
はともかく、こうして若き日のヴァンのパ
フォーマンスが陽の目を見るのは嬉しい。

e0199046_0244649.jpg


 70年代のヴァン・モリソンを一言で言い
表すとしたら、故郷である北アイルランド
を離れアメリカに移住し、ソロ・アーティ
ストとしてのキャリアを踏み出していった
ワン・ディケイドとなるだろう。バート・
バーンズの急逝によりバング・レコーズが
倒産し、新たにワーナー・ブラザーズと契
約してからの10年と言い換えてもいい。ま
るでその70年代の最後を締め括るかのよう
なこの日のライヴを聞いていると、ひとつ
の高い山に昇り詰めていったような彼の達
成感に触れることが出来るのだ。

 アルバム・リリースの時期としてはちょ
うど79年の夏に発売されたワーナーでの
11枚目のソロ作『Into The Music』を受
けてのUSツアーの一環となろう。イギリ
スの音楽ジャーナリストであるジョニー・
ローガンが”全体を通して祝福に満ちた信
仰の念が流れている”と評した通り、その
アルバムはふっ切れたようなヴァンの明る
さが全面に押し出されているのだが、この
ライヴ作にもちょうど同じようなニュアン
スを強く感じる。演奏はかつてのライヴ作
『魂の道のり It's Too Late To Stop Now』
(74年)のように管や弦を含めた壮大なも
のなのだが、大編成の割に少しも大仰な感
じがしない。

 メニューはゼム時代の「Gloria」と「He
re Comes The Night」に加えてバング時
代のハバネーラとR&Bの合体「Brown Ey
ed Girl」を含むベスト・オブ〜的なものな
がら、ここで主眼が置かれるのはむしろ78
年の『Wavelength』と、先に触れた79年
の『Into The Music』といったこの時点で
の近作2枚からの選曲だ。前者からは「W
avelength」と「Kingdom Hall」の2曲が、
後者からは「Bright Side Of The Road」
「You Make Me Feel So Free」「It's All
In The Game/You Know What They're W
riting About」「Angeliou」「Full Force
Gale」「Troubadours」の6曲が取り上げ
られているのだが、ヴァンの声の張りとい
い、ジョン・プラタニアのギターといい、
『Into The Music』でもいい声を響かせて
いたキャティ・キッスーンのガイド・ヴォ
ーカルといい、あらゆるポイントが全体に
寄与しながら大きなうねりを生み出してい
る。残念ながら録音はモノラルであり音の
鮮度は今ひとつ、ふたつといったところな
のだが、そんな欠点を補って余りある内容
だ。この時期のライヴとしてはワーナーが
販促用に配布した『Live At The Roxy』
しか残っていないことも考え合わせると、
より貴重度は自ずと増すだろう。

 昔から俗界とは離れた場所で独自の歩み
をしてきた人だけにどこか老成したような
イメージがあったヴァンだが、今こうして
79年秋の音源にあらためて触れてみると、
はちきれんばかりの若さが飛び込んでくる。
このライヴでも高音部から低音パートまで、
熱を込めたシンギングから静寂に寄り添う
ようなモノローグまで、あたかも一人二役
の如く瞬時に表情を変えていくヴァンの声
には、やはりヴォーカリストとしての天賦
の才を感じずにはいられない。                          

 あれは2011年の秋だっただろうか。対
バンのパイレーツ・カヌーとともに東京ロ
ーカル・ホンクはアンコール・セッション
でヴァンの「Bright Side Of The Road」
を歌ったのだった。ステージを終えてから
も、ホンクの木下弦二は上気した顔をしな
がらその歌を反芻していた。ぼくなどは彼
の説明でこの歌がダン・ペンの「Dark End
Of The Street」のアンサー・ソングという
か、対の関係になっていることをその時初
めて知ったくらいだった。道ならぬ恋のあ
りかをそっと忍ばせたダン・ペンの曲に対
して、ヴァンはこう歌うのだった。「ぼく
たちは陽のあたる通りで愛し合おうよ」

 まるでその歌に導かれるようなトーンが
このライヴの場を陽炎のように満たしてい
く。すっかりアレンジが改められた「Here
Comes The Night」がそうだし、ボビー”
ブルー”ブランドの「Ain't Nothing You C
an Do」にしても、ここではインプレッショ
ンズの「It's Allright」風の編曲が為された
せいか、その歌は内に籠ったブルーズより
は外の空気と触れ合いたがっているかのよ
うだ。あるいはヴァン自作の素朴なR&Bと
った風情の「Call Me Up In Dreamland」
に聞き取れるヴァンとコーラスとの掛け合
いはどうだろう。そのひとつひとつの曲が
束となって若き日のヴァン・モリソンを祝
福していく。どこまでも明るい陽射しのな
かへと包み込んでいく。

e0199046_0192242.jpg




 
[PR]

by obinborn | 2012-12-08 00:18 | one day i walk | Comments(0)  

<< Let The Best Ma... オールマン兄弟が刻んでいった足跡 >>