Spirit In The Dark

ダン・ペン、ジョージ・ジャクソンと少し
ばかりディープな世界に入り込んでしまっ
たが、これからソウル音楽の真髄に触れて
みたい!という方にいつも迷わずお薦めし
ているのが、アリーサ・フランクリンの『
Live At Fillmore West』だ。ぼく自身がま
ずロック体験から始まって次第にブラック・
ミュージックの深〜い世界へずぶずぶと入
っていった人なのだが、そんな音楽遍歴を
振り返ってみても、未だ燦然と輝き続けて
いるのがこのアルバムだったりする。

71年の3月5日、6日、7日の3日間に亘
ってサンフランシスコのフィルモア・ウェ
ストで行われたコンサートから厳選された
このライヴ盤は、今やその全貌を余すこと
なく伝えるCD4枚にも及ぶコンプリート版
もリリースされているほどなのだが、それ
はともかく、今は亡き偉大なるプロモータ
ーだったビル・グレアムは当時こんな発言
をしている。「白人の若者たちに本物の黒
人の音楽を届けたい」

そんなビルの想いに応えるようにアトラン
ティック・レコードのジェリー・ウェクス
ラーが用意したのが、キング・カーティス
のバンドにビリー・プレストンのオルガン
を加えたスペシャルなバック・バンドの編
成だった。何しろギターはコーネル・デュ
プリーだし、リズム隊がジェリー・ジェモ
ットとバーナード・パーディ、加えてパン
チョ・モラレスのパーカッションやスウィ
ート・インスピレーションズのコーラス、
そしてメンフィス・ホーンズまで合流して
いるのだから、ウェクスラーが賭けた気持
ちも半端なものではなかったはず。

アリーサの熱唱に関しては改めて言うまで
もないだろう。教会で鍛え抜いたゴスペル
・シンギングが根っこにある人だから、場
の盛り上げ方ひとつひとつが自然だし、マ
イクから少しばかり離れて掛け声を放つ辺
りの臨場感も格別だ。肯定的な感情の呼び
掛けなんて表現すると、今どきのJ−POPの
人たちも軽く言いそうでイヤなんだけど、
単に同胞たちを励ますだけではなく、シス
コの白人の若者たちにも心を開いていった
アリーサの気持ちのありかのようなものが
歌の端々から汲み取れる。スティーヴン・
スティルスの「愛の讃歌 Love The One
You're With」やブレッドの「二人の架け
橋 Make It With You」といったロック畑
の楽曲を積極的に歌っていることも、そん
な彼女の想いを伝えるかのようだ。まして
当時のアメリカでは多くの若者たちがヴェト
ナム戦争へと駆り出されていた。このフィル
モアに集まった若者たち一人一人にとって
も、愛とか明日とかいう言葉はとても切実
で重い意味を携えていたのだった。

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クライマックスはバンドの力量を示したと
いう意味でも、やはり「Spirit In The Dar
k」だろうか。この長尺ナンバーの終盤に
は予期せぬゲストとしてレイ・チャールズ
が招かれるのだが、盲目のレイがこの「暗
闇のなかの精霊」を歌うことの意味合いを
どうか感じ取って頂きたい。アリーサの自
作となる同曲だが、まるでレイに歌われる
ことで初めてその物語が補完されたかのよ
うな響きに思わず胸が熱くなる。そして興
奮の余韻を静かに抱きとめるような終曲「
Reach And Touch」の鮮やかさはどうだろ
う。

そういえばぼくが敬愛するドラマー、中原
由貴さんもこのアルバムが大好きだという。
バーナード・パーディのファットバック・
ドラムに多くを学び取っていった彼女にし
てみれば必須科目だったのかもしれないけ
れども、その話を伺った時には思わず温か
い感情が込み上がってきた。

かくの如くこの『Live At The Fillmore W
est』は時を超えて、私たちに親和の感情
を呼び覚ます。遥か彼方を見渡すような想
像力をもたらす。そうした意味でこの音楽
の主人公は何もアリーサだけではあるまい。
その声に耳を澄ませる私たち一人一人もま
たソウル・ミュージックの渦のなか、喜び
や誓いの感情を今なお分け合っているのだ。

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by obinborn | 2012-12-09 14:36 | one day i walk | Comments(0)  

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