たったひとつの勝利

こうしてネットを何気に見ているだけでも人々の
ウィルコ・ジョンソンへの惜しみない賞賛のウネ
リが伝わってくる。鮎川とのセッションを手始め
としてミシェルの連中による無償の愛を含めて、
本当にウィルコにとって日本は第二の故郷だった
んじゃないかと思えるくらいだ。残された幾ばく
かの月日を日本のファンたちと分かち合いたいと
の思いが急遽決まった今回の来日であったし、そ
のギャランティをすべて福島と東北地方に!とい
う簡素ながらも潔いメッセージは、政治家のどん
な詭弁や言い訳よりも遥かに心を射るものだった。

あまたの来日公演にロンドンのパブで観たギグな
ど、ウィルコのさまざまな光景が今も鮮やかに蘇
ってくる。その肖像はビート・ロックの原型であ
るとか、マシンガン・ギターであるとか形容され
てきたけれど、本人は「10分だけでもディランと
共演したい!」と言うほど繊細な男であり、60年
代のロック・カルチャー体験が根っこにあること
をけっして忘れてはなるまい。

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すべての彼のアルバムが愛おしい。しかしやはり
最初の出会いとしてドクター・フィールグッドの
ファースト・アルバム『Down By The Jetty』(
75年)はあまりに衝撃的だった。当時はそのゴリ
押しのカッティングに痺れたものだが、今ごくノ
ーマルに聞き直すと、本当にブルーズやR&Bを愛
していたバンドなんだな、ということがじわりじ
わりと伝わってくる。それは他ならぬぼく自身の
音楽体験や生活環境が変わったせいもあるけれど、
パブ・ロックからパンクへの導火線云々といった
彼らのパブリック・イメージだけではなく、どう
か音楽そのものを受け止めて欲しいというぼくの
願いでもある。

別れの挨拶。残された日々。幾多の思い出。ロン
ドンのweaver's armsでぼくが観た時も、彼は自
分のギターを自分で車から会場に運び込んでいた
っけ。その行為たった一つだけ取っても、ウィル
コが果たして一体どんな場所から音楽を始め、ど
んな目線を保っているかがくっきりと浮かび上が
ってくる。ライヴ・パフォーマンスでの惜しみな
い賞賛とは裏腹に近年はスタジオ・レコーディン
グの機会に恵まれなかったこともまた、このいか
にも不器用な無冠の帝王の天才性を逆説的に証明
しているようで何とも切ないけれど、こうして愛
されていることを実感出来るだけでも、ウィルコ
は幸せな人生を送ったのではないだろうか。

世界で一番素敵なロック・レコードを携えて、ド
クター・フィールグッドは75年にデビューした。
初めて彼らの音楽を聞いた日々がまるで昨日のこ
とのようだ。

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by obinborn | 2013-01-13 19:18 | rock'n roll | Comments(4)  

Commented by バイユー有 at 2013-01-15 10:02 x
かつて磔磔で
「僕もあなたがディランと共演できるのを願っていますよ」と話しかけたら、人波から身を乗り出して笑顔で握手を求められました。
Commented by obinborn at 2013-01-15 10:08
ナイスです! ウィルコはその時本当に嬉しかったんでしょうね!
Commented by バイユー有 at 2013-01-15 11:01 x
今、再放送聴きおわりました。楽しませていただきました!
Commented by obinborn at 2013-01-15 11:11
ご清聴ありがとうございました! ぼくもしつこく聞いていました(笑)

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