Blackwater Side物語

昨日フェイスブックで寺田さんに応えて少し触れた
バート・ヤンシュとジミー・ペイジの確執だが、若
い世代のなかには一体何ぞよ?という人もいらっし
ゃるに違いないので、簡単に説明しておきたい。

これはまずヤンシュの「Blackwater Side」をペイジ
が後期ヤードバーズ時代に「White Summer」と改
作して発表したことに端を発したのだが、問題を大
きくしたのは更にペイジがその曲を「Black Mounta
in Side」として発展させ、レッド・ツェッペリンの
ファースト・アルバムに収録したからだった。ヤン
シュの独創的なギター奏法をそのまま真似た「Black
Mountain Side」を耳にしたヤンシュが激怒したとい
うわけだが、そこにはロンドンのフォーク・クラブ
で地道にキャリアを積み上げてきたヤンシュの、鳴り
物入りでデビューした人気ロック・バンドに対する何
らかの屈折した気持ちがあったのかもしれない。

というのも「Blackwater Side」は元々英国の伝承歌
であり、英国の優れた音楽評論家であるコリン・ハー
パーによれば、「The False Young Man」として遥
か19世紀の昔から歌い継がれてきた曲らしい。実際
ヤンシュの『Jack Orion』に収録されたこの曲のクレ
ジットを見ても、「Trad, Arranged By Jansch」と
彼は一定の配慮を示している。しかし『Led Zeppeli
n 1』での表記は何と「By Jimmy Page」のみ。こう
した無神経さが最もヤンシュを怒らせた原因ではない
だろうか。

e0199046_1325377.jpg


それでもぼくがペイジを悪く言えないのは、彼によっ
てバート・ヤンシュという優れたフォーク・シンガー
を知ることが出来たから。またあまりに露骨だったと
はいえ、そうしたフォークやアラブ地方の音楽への関
心がツェッペリンの音楽を大きく成長させていったこ
とを理解しているから。印税という現実に直面する演
奏家としては非常にデリケートな問題を孕んでいるも
のの、音楽シーンというのは相互影響のもとで互いに
刺戟し合いながら形成されていくものだ。そういう観
点に立てば、19世紀に端を発する「The False Youn
g Man」にヤンシュもペイジも感化されたのだなと考
えるほうが、遥かに広い視野に立てるというものだろ
う。そしてヤンシュと恋仲であったアン・ブリックス
の素晴らしく澄んだ歌唱で「Blackwater Side」を聞く
時、得も言われぬ感動が波のように押し寄せてくる。

佐野さんの番組でもぼくは「一人の特定の音楽家が
ある日、まったくゼロの地点からオリジナルな表現
を作り出すのではない」と語らせて頂いた。そして
「相互影響によって同時代的にシーンが作られてい
くことを学んだつもりです」とも。

ロネッツ「Be My Baby」とビーチ・ボーイズ「Don'
t Worry Baby」の関係、ライ・クーダーのオープン
G・チューニングを”盗んで”キースが「Honky Tonk
Women」のイントロを編み出したこと、そして今回
のテーマとさせて頂いたヤンシュとペイジの確執な
ど、音楽シーンは様々な連鎖や影響によって成り立っ
ている。一人の音楽家を英雄視して拝めるのではなく、
広くシーンを展望するような聞き方のほうがずっと
楽しい。蛇足ながら聞き手の一人としてそんなことを
願わずにはいられない。

最後に名誉ある余談を。度を越した”改竄”を反省した
ジミー・ペイジはある日、バート・ヤンシュに懺悔
の言葉を口にしたらしい、とさ。

e0199046_1259858.jpg

[PR]

by obinborn | 2013-01-16 13:02 | one day i walk | Comments(0)  

<< Blue Beat Bop ! Glad and Sorry >>