リチャード・マニュエル、42歳。


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1986年の初め、ぼくたちザ・バンドはフロリダでツ
アーをした。何百マイルも移動して、かなり小さな
クラブを回らなければならないツアーだった。移動
の時間が長く、その待遇にもこっちのプライドが傷付
くような点が多かった。  

ぼくとリチャード・マニュエルはこのツアーがとても
厳しくて、自分がないがしろにされているとこぼし合
った。ラウンジのピアノのひどさも嘆くべきことだっ
たと思う。リチャードがぼくに言うんだ。「リヴォン、
自分は駄目なんじゃないかと思うことくらい、人間を
傷付けるものはない。そういうことを考え始めたら大
きな深みにはまってしまう。こういう場所で演奏して
いると、自分は堕ちていくんだという感じがする」

ぼくはリチャードを諭した。「お前の言いたいことは
わかる。堕ちていくと感じてもおかしくはない。だけ
どちょっと待てよ。ぼくはそれと同時に、どんな場所
の演奏でも、それは自分を試すいい機会だと考えるよ
うにしている。そのテストを何度でも何度でも繰り返
しながら、そういう周りのことは一切関係ないんだと
再確認するんだよ。ぼくたちのやるべきことは楽器を
セットして神経を集中し、10曲と少しを演奏すること。
ボールを抱えてエンド・ゾーンに倒れ込む少年と同じ
ような喜びを味わえるまで、何度でもそれを試すんだ。
ぼくたちはミュージシャンなんだよ! みんなを喜ば
せるために演奏する。それがぼくたちに出来るベスト
のことなんだ」

ぼくとリチャードはそのあと二人で、曲のこと、テレ
ビでやっている古い映画のこと、共通の知り合いのこ
となどを話した。彼にいつもと違うところがあったと
は思えない。別れ際に彼は「映画の続きを見るよ」と
言った。

リヴォン・ヘルム 1994年
(Levon Helm and the Story of THE BANDより)

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by obinborn | 2013-01-19 13:49 | one day i walk | Comments(0)  

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