東京家族

 現在封切り中の『東京家族』を観てきました。

 帰り道にまず思ったのは、きっと誰もが思い
を共有出来る映画だろうということ。余程偏屈
な価値観の持ち主でない限り、夫婦とか家族、
あるいは親と子といった関係は社会生活におい
て最もベーシックなものですし、それらの絆や
語らい、また時には軋みや齟齬がもたらす喜怒
哀楽は、好むと好まざると人々が毎日を暮らし
ていくうえでの証なのですから。

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 そのような家族の肖像を描き出すのに、凝っ
たカメラワークや特撮などの奇を衒った演出は
御法度です。山田洋次監督が約2時間で感じさ
せるのは、逆にむしろゆったりとした時間の流
れだと思います。どこにでもありそうな家族や
日常の光景を映し伝えるためには、陽が昇って
から沈んでゆくまでの時間に寄り添ったり、一
緒に散歩する愛犬に黙って合わせるような呼吸
が一番似合うのでは? 観ているこちらも何だ
かとても懐かしく、のんびりとした時間の流れ
に身を委ねることが出来ました。

 のんびりとした時間とは言っても、瀬戸内海
に暮らす老夫婦が長男、長女、次男が住む東京
を久し振りに訪ねてから、帰っていくまでの間
には普段と変わらぬ慌ただしさや、都会の喧噪
があり、ちょっとした行き違いやデコボコもあ
るのですが、カメラはあくまで老夫婦の朴訥と
した姿や悠然とした仕草に歩調を合わせていき
ます。そんなことも昨今の享楽的なハリウッド
映画には求められない日本的な慎ましさ、味わ
い深さですね。

 映画には東京と田舎といった対比や2011年
3月の大震災のこと、あるいは非正規雇用で働
く今どきの青年の事情も背景として何気なく仄
めかされています。そしてむろん死のことも。
卑近な例で申し訳ないのですが、50数年以上も
生きていると、結婚式より葬式のほうが増えて
きます。出会いよりは別れのほうが多くなって
きます。事実、親や親戚の一部そして幾人かの
友だちたちは早くも彼岸へと渡ってしまいまし
た。そういう近年の環境に身を置いてみると、
余計にこの『東京家族』がスケッチする温かい
時間や何でもない日常会話の数々が愛おしくな
ってきてしょうがない。そんな思いに捕われて
しまうのは、けっして私一人ではないでしょう。

 思ったことを最後にもうひとつだけ。先ほど
カメラワークのことについて少しだけ触れまし
たが、この映画では登場人物の一人一人がまる
でこちらに語りかけてくるような錯覚を覚えま
した。正面からカメラを直視しながら語りかけ
る。もしかしたらそれが隠れたヒントなのかも
しれません。しかもその語りが青春映画やロー
ド・ムーヴィなどで多用される独白というより
は、人と人を結び付け、繋ぎ止める”会話”であ
ること。少なくとも私はそこに大きな意味を感
じずにはいられませんでした。

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by obinborn | 2013-02-05 15:04 | one day i walk | Comments(0)  

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