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その日のまえに

50代も半ば近くになってくると、やはりたまに死のことを
考える。これまで過ごしてきた歳月よりも残された時間の
ほうが少ないことに愕然としたり、残念なことに披露宴よ
りも葬儀の回数のほうが多くなってくる。少なくとも若い
頃のように未来が無邪気に微笑んでいるわけではない。

そんな思いとともに重松清の『その日のまえに』(文春文
庫 08年)を読んだ。この連作短編集の主人公はそれぞれ
の身近に故人や死にいく人を抱え込んでいて、その影に苛
まれながらも日々をやりくりし、奮闘している。

ご存知のように重松清は”泣かせの名人”である。もう少し
抑制したり抽象化すれば文学的な評価が高まるだろうにと
思うところも、あえて具体的に書き上げることで泣きの落
としどころを突きまくる。会話中心の文章や平易な文体が
それを後押しする。好みはどうであれ、それが重松という
小説家(ときにルポライターも)の作法であり、そもそも
大衆文学の生命線とはそのようなものだろう。

とりわけ妻の闘病を見守る表題作と、力尽きた日の様子を
淡々と描く「その日」、愛する隣人が去ってからの日々に
触れた「その日のあとで」の連なりが素晴らしい。他の短
編にしても、子供の頃には漠然としていた死がやがて身近
になっていく過程を伏線として忍ばせている。ここら辺の
筆さばきというかストーリー・テイルは本当に上手いなあ
としみじみ。

ぼくもいつか彼岸へと渡る日が来るのだろう。その時とも
に悲しんでくれる人はいるだろうか。一緒に涙したり、幸
せな歌の数々を口ずさんでくれる人たちはいるだろうか。

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by obinborn | 2013-04-07 11:52 | 文学 | Comments(4)  

Commented by 酩酊爺 at 2013-04-07 13:15 x
その小説が、大林宣彦監督によって映画化されたが、ほとんど話題にならなかった。その映画に通行人役で3秒ほど映っているのは、オイラです。(爆)
Commented by obinborn at 2013-04-07 13:17
そうだったんですか! 知らなかった!
でも凄いですね^0^
Commented by ちーくん at 2013-04-07 18:26 x
おっしゃっていること、まったく同感です。若さしか誇るものが無かった若輩者の頃には感じなかった、自身や周囲の人間の衰えや死は、経験や時の流れとともに「自分の事」として捉えるようになりました。小尾さんがおっしゃる最後の3行と同じ事を、今まさに私も考えていたのです。
Commented by obinborn at 2013-04-07 18:31
ちーくん、解って頂けて嬉しいです。

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