ニック・ロウの肖像

昨日武蔵小山のアゲインに行く際に立ち寄ったのが同じビル
の1Fにある名物レコード店・ペットサウンズ。そこでニック
・ロウが01年に発表した隠れた名作『The Convincer』のア
ナログ・レコードを入手した。むろんCDで愛聴してきた作品
だけど、相手がニックさんとなればこりゃ買わないわけには
いかないよね(笑)。

The Convincer、信念の人とでも訳せばいいのだろうか。20
代前半からプロとして長年活動してきたニックにはむろんそ
れだけの自負もあるだろうが、それ以上に聞き手の心を掴ん
で離さないのはどこまでもしなやかに弾む歌心だろう。とく
に近年は重ねてきた歳月に相応しい味わいを感じさせている
が、もったいぶった大御所っぽさやケレン味は微塵もない。
それどころか彼の歌はどんどん研ぎ澄まされ、無駄な贅肉を
削ぎ落しているようだ。

かつてパワー・ポップの流れを先導した時代には若さ故の毒
気や皮肉や茶目っ気を撒き散らせていた彼だが、そうした過
去の肖像にしがみつくのではなく、中高年ならではの孤独や
諦観にしっかりと向き合いながら、正直過ぎるくらいのソン
グライティングを心掛けてきた。近作でも「ぼくはこの売り
家を出ていくよ。かつての平和と愛と理解の歌を歌いながら
ね」(House For Sale) なんて言うフレーズが何気に挟まれ
ているのだから、こっちのほうがドキリとしてしまうほど。

自分自身のことを振り返ってみても、近年は周りの動向に惑
わされたり情報の洪水に振り回されることは殆どなくなった。
遅まきながら年齢とともに自分が確立されたのだろうか。ま
あもっと平たく言えば、”無理はしない” ”普通に暮らす”とい
うことですけどね(笑)。

アルバムの白眉はジョニー・リヴァースの「Poor Side Of T
own」(僕たちの町)だろうか。66年の10月に全米で1位に
輝いたこの曲をニック・ロウは追想を込めて歌っている。こ
の曲での主人公は恋人に裏切られ心が引き裂かれているが、
同時にそんな彼女に”戻ってこいよ”と寛容さも仄めかしてい
る。そんなアンヴィヴァラントな感情をゲラント・ワトキン
スのオルガンがそっと包み込んでいるのだから、歌の真意は
自ずと明らかだ。

ぼくより一世代上にニック・ロウという先輩がいる。その人
が時代に媚びることなく今日も自分の音楽を作っている。そ
のことから学ぶものは少なくはあるまい。

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by obinborn | 2013-04-17 16:02 | one day i walk | Comments(2)  

Commented by りーな at 2013-04-22 23:52 x
遅ればせながら、コメント失礼します。
この写真のニック・ロウ、一瞬エリック・アイドルかと思いました。良く見たらぜんぜん似てないですけど(笑)
このご時世に吸いかけのタバコを持っているのも、カッコいい。
音楽とは直接関係ないけど、これも「時代に媚びていない」ことかな。

それだけなんですが・・・
Commented by obinborn at 2013-04-23 05:59
嫌煙者としては気になるところですが(笑)、ニックさんであれば
許してしまいましょう。以前も彼にはタバコ・ジャケがあったので
好きなんでしょうね

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