音楽について書くこと

よく友だちや同業者たちとも話すことだけれど、
音楽評論を書くうえでデータと思い入れという
のはどちらを欠いても駄目だとぼくは思ってい
る。きちんとした情報を開示していない文章は
CDの解説として体を成していないだろうし、
せっかく日本盤を買ってくれたリスナーの期待
にも応えていないのだから至極当然のことだ。
しかしその一方で、個人の思い入れなんかどう
でもいい、などと言ういささか乱暴な意見には
首を傾げざるを得ない。

例えばそれが「彼氏と出会った時によく聞いて
いた思い出の曲なんです」なんていう女子日誌
のようなものならぼくもオイオイとツッコミを
入れざるを得ないだろうが、その筆者がどんな
気持ちでボブ・ディランやニール・ヤングの歌
に接しているのかを知るのは悪いことではない
し、著名原稿である以上ウィキを丸写ししたよ
うなレベルでは評論としての価値があるはずも
ない。例えば佐野元春は「Like A Rolling Sto
ne」に関して、「金持ち女が落ちぶれていく
ただそれだけの歌。でもそれがどうしてこんな
にも人々の関心を引き付けるんだろう?」と
端的に歌の核心を言い当てる。ニール・ヤン
グは新作の「Twisted Road」で「初めてLike
A Rolling Stoneを聞いた時、ボクは訳も解らず
興奮して家に帰ったんだ」と若き日を自己申告
する。歌はそうやって時代を超えながら思わぬ
結び目を作る。

他にも例を挙げよう。ローリング・ストーンズ
の「Satisfaction」が65年の6月19日に全米
で1位に輝いたことは”データ”を調べれば誰に
でも解ることだが、その曲と前後したスティー
ヴィ・ワンダーの「Uptight」との関連性を探
り、その頭打ちのビート感を指摘すれば、同じ
時代の意外な関係性に好奇心が湧くだろうし、
今現在ぼくが書いているライナーノーツに即して
いえば、テキサス・トルネードズのデビュー作
に関してスペイン語版が作られたことから、ア
メリカという国に於けるヒスパニック人口の
増加を推移することも出来る。これは想像力の
原点のようなものなのかもしれない。

結論をいえば、データか思い入れかという二元
論では抜け落ちてしまうものがあまりにも多い
し、第一そうした二者択一の発想には気持ちの
貧しさを感じてしまう。私たちは審判ではない。
判事でも裁判官でもない。昨日を生き、今日を
過ごし、そして明日を更新していく存在であり、
そこにはいつも音楽が伴侶となり寄り添ってい
る。

ぼくはそのことを忘れずにいよう。

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by obinborn | 2013-05-02 19:03 | rock'n roll | Comments(3)  

Commented by 大塚 at 2013-05-03 00:08 x
たとえばオレなんかディランのライブで一番好きなのは
ザ・バンドと一緒に演ってる74年のツアーのアルバムだし
ブートレッグ・シリーズのローリングサンダー・レヴューのライブがリリースされた時に
『ビフォー・ザ・フラッド』の評価が微妙に落ちてしまっていた
なんか変だなと思ったのはあの頃は全体的にフラッド軽視の文章が多かったということだ

Commented by 大塚 at 2013-05-03 00:09 x
そしてもう一つ
レココレのディラン本と去年出たディグのザ・バンド&ボブ・ディランのムックに
『フラッド』アルバム解説に1曲目の「我が道を行く」は実はアンコールに演奏されて
という記述が両方ともの本に書いてある
たしかにこの全米ツアーにおいて1曲目とアンコールで演奏されている日もあるようだが
WOLFGANG'S VAULTの音源を聴いてみると
ツアー最終日の2月14日のレイトショーから採用されたテイクのようだが
この日はどうやらオープニングにしか演奏されていないようだ

WOLFGANG'S VAULTの音源が編集されているのかもしれないし
実際のことはオレにもわかりません
むしろ問題は二人の筆者が同じような事実を書いているということ
少なくともアンコールの演奏と断定するのはよくないような気がします
読んでるこちら側としてはほんとに本当?って言いながら読んでました
Commented by obinborn at 2013-05-03 02:55
海外で新しいデータが出てくると裏を取らずにその説につい飛び付き書いてしまう典型例だと思います。だいたい「我が道を行く」が1曲めであろうがアンコールで歌われた日があっただろうが、それのみをあたかも得意げに書き連ねているようでは魅力ある文章とは言えないし、ディランを語ったことにもなりません。私も未だ『Before The Flood』がライブ盤のなかでは一番好き。本人は気に入ってないみたいだけど(笑)

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