何もなかったように

荒井由実『14番目の月』(76年)を久し振りに。

ヒットした「中央フリーウェイ」のリッチなイメージが
あまりに一人歩きしてしまったがためにやや損をしてい
るアルバムだけど、「朝陽のなかで微笑んで」など心に
響く名曲も収録されるなど、ユーミンがブレイクスルー
していった時代を代表する充実作だ。

演奏面では従来のキャラメル・ママ〜ティン・パン体制
から次第に離れ、ギターに関して言えばティン・パンの
鈴木茂が残る一方で、松原正樹が新たにリクルートされ
るなどの微妙な変化がある。この二人のテイストの違い
については、残念なことに曲ごとのパーソネルがない故
に想像を逞しくするしかないのだが、それぞれの熱心な
ファンであればトーンや手癖からきっと解るはず。さら
にベースを全曲リー・スクラー(JT〜ザ・セクション)
が受け持つことで、跳ねるようなノリがどこまでも心地
好い。歌伴が得意なスクラーなれど、案外装飾していく
オブリガートも多くって、ここら辺はスタジオ・ミュー
ジシャンが脚光を浴びていった70年代のプレイヤーなら
ではの(いい意味での)主張が汲み取れたりもする。

今の若い人にはピンと来ないだろうが、当時の荒井由実
は評価を得る一方で、歌詞に生活感がないとか、プチブ
ル的な享楽主義とか言われ放題だった。八王子の呉服屋
に育った多感な才能が何でそんなことを言われなければ
ならなかったのか。時代や発想の貧しさを問わずにはい
られなかったりもするけれど、それはともかく、それは
ぼくに歌について考えるきっかけを与えてくれたのだ、
と今にして思う。

特定の誰かを糾弾したり、解り易い”敵”を見つけて攻撃
するような歌とはまったく対照的に、ユーミンは避暑地
のざわめきを歌う。秋の気配がするさざ波に耳を傾ける。
ある日突然死んでしまった愛犬に寄り添いながら「何も
なかったように」の歌詞をそっと書き留めてゆく。

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by obinborn | 2013-06-15 19:07 | rock'n roll | Comments(0)  

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