デヴィッド・ブルーの歌は刺繍のように肌を浸していく

「日曜であればいつでもぼくは広場に行き、名もなき人たち
や通り過ぎる車を眺めている。彼らはどこに行くのかな?
一緒に付いて行きたいと思うこともあるし、そうではないこ
ともある。ときどき交わす言葉はいつの間にか空に解けてい
ってしまうんだ」(On Sunday,Any Sunday)

 この歌を収録したデヴィッド・ブルーの『Nice Baby And
The Angel』は73年にアサイラム・レーベルから発売された。
60年代の半ばからグリニッチ・ヴィレッジで歌い始めたブル
ーはやがて西海岸へと移る。そんな時期に残されたこのアル
バムはグレアム・ナッシュがプロデュースしたこともあって、
デヴィッド・リンドリーやデイヴ・メイソンがいいギターを
奏でたり、グレン・フライやジェニファー・ウォーンズが爽
やかなコーラスでブルーを後押ししたりと、ナッシュらしい
親和力でブルーの歌に別の角度から光を当てている。73年と
いえばナッシュ自身が2枚めのソロ作『Wild Tales』をリリ
ースしたばかりの時期だった。

 当時のブルーがどういう心境にあったかは伺い知れないけ
れど、たとえば「Darlin' Jenny」ではLAにいる恋人に手紙を
書くという設定を借りながら拝金主義を嫌ったり、アナハイ
ムへと旅立つ「Train To Anaheim」では彼女に別れを告げ
ながら思い出を振り返ったりしている。

 生まれついてのボヘミアンなのだろうか。定住を良しとせ
ずにあちこちを彷徨うような歌が他にも並ぶ。そのどれもが
ブルーらしい孤独を感じさせていて、今でも鳥肌が立つこと
がある。

 「煙草を灯しながら汽車が来るのを待つ。レイディの顔を
もう一度眺めちゃったりしながらね。旅をするのさ。誰も俺
のことを知らないし、どいつも俺を歓迎しないけどね。この
安ホテルのまずい飯を食べながら、俺はこの冷えきった部屋
にそっと鍵を掛ける」(「Troubadour Song」)

 デヴィッド・ブルーの生涯はあまりにも短かった。82年が
もうすぐ暮れようとしていた12月のある日、ニューヨークの
ワシントン・スクエアをジョギングしていた彼は突然倒れて、
そのまま帰らぬ人となってしまった。享年41歳。そしてぼく
はブルーほどの旅もしないままに、これといった夢も描けな
いままに日々をやりくりしている。「On Sunday,Any Sund
ay」を口ずさみながら、凡庸な生活のなかに今日もまた身を
浸していく。

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by obinborn | 2013-06-16 02:47 | one day i walk | Comments(2)  

Commented by 大塚 at 2013-06-16 11:19 x
最終作のキューピッズ・アロウもいいですね
探検隊でも歌詞対訳付きでCD化してほしいものです
ジェシ・エド・デイヴィスのギターも何ともいい音で
しっかりブルーの歌に寄り添ってます
Commented by obinborn at 2013-06-16 15:58
顔のドアップのジャケですね。あれもいいです!

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