季節の便り

弦克こと木下弦二と佐藤克彦のデュオ・ライヴを
6日は自由が丘のバードソング・カフェにて。
弦二の歌はもう何度も何十回も接しているけれど、
こうして生で聞くたびにしみじみと肌を震わせる。

その歌は取り立てて正義の旗を振りかざしたり、
不正を質したり、ましてどこかの誰かを糾弾した
りはしない。それでも彼が歌う工場の遠景や町往
く人々がもし失われてしまったらどんなに味気な
い世界なのだろう、と思わせるような含みや含蓄
がいつもある。ぼくはそこにどきりとさせられる。

彼が福岡に引っ越してから出来た曲のひとつ「夏
みかん」にしても、掌にあるなかなか剥けないみ
かんと向き合う営みと、そこから広がり飛躍して
いく世界との対比がどこまでも鮮やか。この曲に
限ったことではないが、そんな遠近法による歌の
スケッチが弦二は抜きん出て上手い。それが名手
・佐藤克彦のラップ・スティールやギターと会話
し併走していくのだから、彩りはどこまでも鮮や
かだ。そう、日記にも書き留められないほどに。
大地の温度を確かめに行きたいほどに。

ソングライターとギタリストの関係にしてもあり
がちな主従の関係ではなく、弦二自身がオクター
ブやヴォリューム奏法を用いながら澄んだトーン
のフレーズを繰り出したり、後半は素晴らしい若
手女性シンガーが加わるだから、何とも贅沢で親
密なリヴィング・ルーム・パフォーマンスだった
と思う。そして弦ちゃんにはやはりベスパのセミ
アコが着慣れた服のように一番似合っている。

この夏のライヴ・スケジュールを比較的多めに入
れたことに関して、弦二はこう説明する。「西か
ら東北まで回ってきました。その成果を見て欲し
くって」それが具体的にどういうものなのかはぼ
くには判らない。ましてその成果とはそのまま新
しい歌へと換算されるものではないだろう(古い
曲も日々新しく成長する)。

旅をし終えて駅を降りる。彼は出発前と変わらな
のかもしれない。変わったのかもしれない。ただ
一つ言えるのは、誰もが旅を一巡すると、どこか
の誰かに何かを語りかけたくなること。そのこと
に関して、木下弦二という人はどこまでもどこま
でも、むしろあけすけなまでに正直だ。

きっと帰り道も音楽の続きなのだろう。そんな風
に思いつつ、ぼくは終電近くの電車に乗った。

e0199046_1525263.jpg

[PR]

by obinborn | 2013-07-07 02:09 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

<< フリー・フォームの奔流 Get Your Kicks ... >>