救済もなく、慈悲もなく

90年代以降に最も再評価されたシンガー・ソングライター
といえば、真っ先にジュディ・シルの名前を挙げる人も少な
くないだろう。とくに71年に発売されたシルのファースト・
アルバムは当時それほど話題にならなかっただけに、こう
して再び脚光を浴びることが、ぼくには意外だったりする。
例えば少なくともシルはキャロル・キングやジョニ・ミッ
チェルのようにポピュラーな存在ではなかった。

故人シルは自分の音楽を「レイ・チャールズとJ.S.バッハの
間」と説明していたらしい。チャールズと言ったのは恐ら
く感覚的なものだろう。リズム面でブラック・ミュージック
からの影響がそれほどあるわけではない。しかしバッハ的
なオーケストレーションに関しては、シルの特異な音楽を
形作る大きな要素だと思う。

私たちはよくフォーク音楽の延長線上にシンガー・ソングラ
イターを位置付けてみたりする。それは60年代から70年代
へと橋渡ししていく時代の大きな潮流だったことは間違い
ない。それでもシルにはそうした過去との連続性は殆ど感
じられない。ギターなりピアノなりの弾き語りという体裁
は保っているものの、それがバロック的な旋律や広がりの
ある弦や管によってゆらゆらと立ち上っていく感じだ。も
しかしたらそういう新しさが若い世代に”再発見”されてい
くポイントだったのかもしれない。

シルの歌はどの曲も若き日の淡いひらめきや白日夢のよう
に脆く、移ろう時間のように去っていく。通常のロック・
ビートを感じさせないアレンジが、そうした印象を後押し
する。彼女の不幸な生い立ちや、それ故にすさんでいった
生活(ドラッグ、収監、奇行)については、ここで繰り返
すまでもないだろう。

それほど明るい未来が約束されているわけではない。そん
な感覚が影のようにまとわりついている。生い立ちや環境
に規定されていくのが人の宿命であるのなら、それに対す
る抵抗もまた業のようなものだろう。シルは「クレヨン・
エンジェル」のなかでこう歌っている。「インチキ預言者
が私のたった一つの光を奪い、暗闇へと葬ってしまった」

救済を求めるシルの歌。それは今、私たちとともにある。

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by obinborn | 2013-07-17 00:49 | rock'n roll | Comments(0)  

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