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今年最後の青山陽一the BM'sを観た

かしぶち哲郎の訃報が昨日届けられたばかりで何
とも気持ちが塞ぐなか、21日は青山陽一the BM's
今年最後のワンマン・ライヴを吉祥寺のマンダラ
2にて。思えば青山もムーンライダーズとは浅か
らぬ縁がある音楽家の一人。そんないささかの感
傷もあったが、青山本人は普段にも増して気合い
たっぷり。きっと思うところもあったと想像する
が、演奏はどこまでも豪胆な熱気を放つものとな
った。内気かと思わせる自画像と骨太なロックと
の取り合わせが現在のthe BM's最大の魅力だが、
この日もまた強靭かつ繊細なグルーヴがあたりの
空気をたっぷり隅々まで震わせていく。

とくにこの日は昨年の暮れ同様に元the BM'sの田
村玄一のギター及びペダル・スティール・ギター
を加えたスペシャルなクィンテットになった故、
音の広がりが素晴らしかった。シンプリティを極
めた綱渡り的なオルガン・トリオや、クリームや
ヘンドリクス・エクスペリアンスといったロック
・リジェンドを彷彿させるパワー・トリオなど、
その時々の編成で演奏の輪郭が微妙に変わるのは
今の青山ならではの強みだが、この日はツインギ
ターでガンガン弾きまくる力技や、ペダル・ステ
ィールならではの浮遊感が際立っていた。ペダル
=カントリーという常識を覆していく彼の斬新な
プレイに覚醒させられるばかりか、昨日大阪で田
村とともに新生KIRINJIで演奏していた千ヶ崎学
の激しく唸りを上げていくエレキ・ベースにも驚
かされた。その頂点はフレディ・キングのファン
ク・ブルーズであり、オールマン・ブラザーズで
も知られる「Woman Across The River」のカバ
ーだったかもしれない。また古くから青山の理解
者でありずっとバンドを支えてきた伊藤隆博も、
この日は特別にセッティングされたグランド・ピ
アノをエレピと平行しながら聞かせる贅沢さだ。
そして現在のthe BM'sの心臓部とも言うべき中原
由貴の起伏に富んだドラミングは高らかにロック
音楽そのものを告げるかのよう。そういえば彼女
の可憐なコーラスも現在の青山には欠かせない要
素に違いない。

思えば歌謡ロックやヴィジュアル系ロックが趨勢
を占めていた80年代半ばに、それらの動きとはま
ったく異なる地平からまるで影絵のように登場し
たのが青山だった(不幸なことにぼくは当時彼の
ことを知らなかった)。グランドファーザーズや
ソロの当初こそニューウェイヴ的な意匠を纏って
いた彼だが、次第に高度なソングライティングと
ギターに磨きを掛け、本来好物だったルーツ・ロ
ックの語彙を活かしながら歩みを進めてきたと言
っていいだろう。それでも今なおあくまで中心に
置くのは淡い色彩感を伴った曲作りの上手さ。一
聴したところ取り留めのない歌詞と旋律が、実は
イマジネイティヴな視界を持っていることに気付
く。抽象詞と音楽という動詞の混ざり方に彼なら
ではの審美眼が覗く。作品としてはもっと後にな
るが、彼のように「夕闇におけるクロール」とい
う不思議な言葉を使う人はいなかったし、複雑な
和声を用いてそれを弾ませる人も少なかったと記
憶する。

この日は「Vampire」や「Million Miles Long Hai
r」といった初期の楽曲に加え、世紀の変わり目の
傑作『Bugcity』からめくるめく変拍子の「難破船
のセイラー」、しなやかなソウル語法を活かした「
Revival」、シンプルなビートがやがて大きくうね
る「Bad Melody Bad」そして恒久の流れを思わせ
る「Bright Lights Bugcity」の4曲が選ばれるなど
懐かしい場面もたっぷり。それらが「炎とは何のこ
とか」「Empty Song」「毎度の調子」といった最
新作からのナンバーとうまく連携しながら、逞しい
演奏をどこまでも繰り広げていった。日本のロック
を牽引したかしぶち氏の他界は残念だが、きっと彼
は天国からほぼ一世代若いこの後輩たちに微笑んで
くれたことだろう。

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by obinborn | 2013-12-22 16:54 | 青山陽一theBM's | Comments(0)  

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