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馬の耳に念仏

ライブの日は開演前の談笑も楽しい。昨日も店に着いたと思ったらいきなりB.Y.Gの社長さんから声を掛けられた。その社長もまた早くから東京ローカル・ホンクの才能を見つけ、温かく見守り続けている方だ。何でも彼は60年代のブライアン在籍時のストーンズをロンドンで観たらしく、そんな自慢をしたり時に頑なまでにご自身の主張を譲らない(笑)ところもぼくは好き。

そんな渋谷のB.Y.Gで昨日流れていた一枚がフェイシズの『馬の耳に念仏〜A Nod's As Good As A Wink』だ。自分の大好きな音楽だから気持ちいいのは当たり前なのだが、こもりがちな部屋を抜け出し、店で友だちたちとワイワイ一杯やりながら聞くのは至福の瞬間である。

69年のデビュー・アルバムをボブ・ディランの曲から始めただけに、アーシーなアメリカ指向が元々あったグループだけど、このサード作(73年)で頂点に昇り詰めた感がある。大ヒットしたStay With Meには「一緒にいてくれ、でも朝になったら出 ていってくれ!」なんていう身勝手な歌詞も出てくるけれど、それをロッド・スチュワートが歌ったMaggie Mayの「ぼくは利用されていたんだ。マギーさようなら、ぼくは朝の光ととも に学校に戻るよ」に重ね合わせるファンは幸福かもしれない。

ロッドのバックバンドみたいな扱いが一般的かも知れないが、スモール・フェイシズ時代からその才を発揮していたロニー・ レインの共作を含めてのソングライティングもYou're So RudeやLove Lived Hereに遺憾なく発揮されている。まるでパブ・ロックにも通じるLast Order Pleaseでの酔い具合もフェイシズ のイメージを裏切らない。そしてロニーの生涯で忘れられない記念碑となった名曲Debrisの哀感はどうだろう。

フェイシズのロックンロールはパーティの楽しさを彩るものだ。
しかしその一方で彼らはパーティが終わった後の寂しさにも寄り添う。さんざん泣き尽くした後に始発列車を待つような体験をしたのは20代の頃だっただろうか。自分が何者かどうかが解らない。どんな未来が待っているかをまったく描けない。馬の耳 に念仏と自分に言い聞かせたとしても、他者と共有されなかった思いは枕元に残り、ほろ苦い夢とともに朝を迎える。ぼくにとってフェイシズとは、まさにそんなロック・バンドだった。

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by obinborn | 2014-02-01 18:41 | rock'n roll | Comments(0)  

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