東京ローカル・ホンク「おいのりのうた」

東日本大震災以降にぼくが幾多のソングライターたちに抱いた
関心は、彼らが今後どういう歌を作り歌っていくかにあった。
何も直接的な反原発ソングを歌ったり、もっともらしく被災地
の心情に寄り添ってみればいいというものではない。むしろ本
物のソングライターであるならば、暗喩とかある種の物語性の
なかに気持ちを込めるのではないか? ぼくにはそんな願いが
あった。

東京ローカル・ホンクの場合はどうだろう。グループのソング
ライターである木下弦二が震災後に作り、ライヴの場で披露し
たことのある歌は、「夜明けまえ」「お手手つないで」「夏み
かん」「GOD HAS NO NAME」「遅刻します」といった新曲
だった。「夜明けまえ」は一日の稼ぎを手にして家に帰るバン
ドマンの歌だし、「お手手つないで」はセカンドライン的なお
祭りソングだった。「夏みかん」で差し伸べた何気なく愛おし
い日常の風景は、逆にそれが一瞬のうちに失われた時の残酷さ
を思わせる優しいメロディに溢れていた。辛辣な「GOD HAS
NO NAME」の歌詞にある「ブルーズなんて習い事さ、ロック
ンロールなんて借り物さ」(筆者聞き取りのため正確ではあり
ません)というフレーズにも弦二の一貫した音楽観が伺えた。
そしてユーモラスな「遅刻します」で示される生命へのぶきっ
ちょな肯定。それらの歌どれもが何ら彼の身の回りから離れる
ことなく、言葉が一人歩きすることなく、歌われていたことに
ぼくは心打たれた。

しかも彼の場合、震災以前に作られた歌がより深い意味を携え
ながら響いてきた。何でも大戦終了間際のあの残酷な沖縄決戦
のドキュメント番組を観ていて着想を得たという「いつもいっ
しょ」、恐らく彼の子供たちを題材にしただろう「目と手」、
そして「おいのりのうた」。これらの歌がより強度を増してい
ったことにぼくは打ち震えた。それらの歌詞は一見したところ
平易ではあるものの、逆に言えば、想像する余地とか含蓄があ
り、聞き手それぞれが自由に自分の暮らしや世界観を描いてい
けるような”キャンバスの白さ”があった。普段から「長持ちす
る歌を歌いたいんです」と公言してきた弦二のソングライティ
ングの最もデリケートな部分が淡い光となって幾多にも広がっ
ていく。そんな鮮烈な印象だ。

もっともらしく現実を嘆いたり、具体的な為政者をやりこめる
ような歌であれば恐らく誰にでも作れるだろう。でも、そうい
う歌は一時の話題にはなっても長持ちはしない。ぼくには辛抱
強く、丁寧にソングライティングに向き合っている優れた音楽
家たちの姿が見える。それを聞き取っていこうと思う。


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by obinborn | 2014-07-26 17:52 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

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