グレアム・ナッシュ〜BE YOURSELF

マイク・バインダー監督による映画『再会の街で〜Reign
Over Me』(07年)は重苦しい作品だった。大学時代を共
にしたルーム・メイトどおしが歳月を経てある日ふと再会
するのだが、開業医として成功し妻子とともに幸せな家庭
を営む一人の男と、妻子を失い悲観に暮れるもう一人の男
とが残酷なまでに対比されていくからだ。まして後者の彼
が家族を失った理由があの忌まわしい9・11事件だった
と知れば、運命を分けた現実の残酷さを思わずにはいられ
ない。そんな彼らではあるが、二人して久し振りに中古レ
コード店へと繰り出すシーンがある。ニューヨークが舞台
なので恐らくグリニッチ・ヴィレッジ界隈かと思われる。
そこで一人が手に取るのがグレアム・ナッシュの『SONG
S FOR BIGINNERS』(71年)だ。バインダー監督がどこ
まで意識したかは定かではないが、ここで仄めかされるの
はヒッピー〜ウッドウトック世代の過去と現在だろう。つ
まり監督は9・11以降に試練を受けた世代を描こうとし
ているようにも受け取れる。

ぼくにとっても『SONGS FOR BIGINNERS』は忘れ難い
アルバムだ。「狂気の軍隊〜Military Madness」や「シカ
ゴ」といった当時のヴェトナム戦争や学園闘争を扱った歌
にも、個人的なラブ・ソングの「Simple Man」や「Sleep
Song」にも、グレアムの良心や正直さが溢れていた。何
しろ自分の音楽的才能を控え目に申告した『初心者のため
の歌』というアルバム・タイトルが彼らしかった。ぼくだ
って自信満々の演説を聞かされるよりは、同じ部屋でぼそ
っと呟く友人のような歌を聞きたかった。学園闘争の末路
を後の世代から見てきたぼくは、当時とくにそういう個人
的な歌を求める傾向があったと思う。このアルバムではま
ず「Be Yourself」が好きになった。好きというよりは、ち
ょっと上のお兄さんから「自分自身でいなさい」とピアノ
とギターで語りかけられているような気持ちになった。

物事を正しく理解するのはとても難しい。さっきも誰かの
フェイスブックで関東地区の新しい汚染地図が示されつつ、
放射能がより高くなっている旨が記されていた。だが、そ
のデータが本当に信憑性があるのかは誰にも解らない。い
や理解出来る方もいらっしゃるのかもしれないが、少なく
ともぼくには把握出来ない。それらを鵜呑みにしてシェア
し合っている人たちは、穿った見方をすれば福島の現実な
ど見ようとせず、ただイタズラに恐怖心を煽っているよう
にさえ感じてしまうほどだ。そうしたぼくの見方はともか
く、確信を持って正しいソースだと自分で思えない記事に
関してはシェアをしない、けっして広めまい、というのが
ぼくの態度であり、ある種の社会的表明だ。

グレアム・ナッシュの「Be Yourself」を今改めてこうして
聞いていると、社会に揉まれくたびれ切った中高年の自分、
ヒネくれた物の見方しか出来なくなっている自分にもまだ
僅かながら何にも冒されていない青さが残っていることに
気が付く。それはもしかして最後のよすがなのかもしれな
い。だからぼくはデマや誇大と思える記事は絶対にシェア
しない。たとえみんながシェアして最後の一人になったと
しても、シェアなど絶対にするものか!そんな静かな意志
さえもグレアム・ナッシュの歌はそっと届けてくれるのだ。

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by obinborn | 2014-07-28 11:41 | rock'n roll | Comments(0)  

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