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佐野元春〜SOMEDAY再現ライヴ

音楽家にとって最も大事なのは現在だ。でもたまには昔を振り返
ってみるのも悪くない。ましてそれが人々に愛された名作ならば
なおさらだろう。そんな気持ちで友人から渡されてきた佐野元春
『サムディ』再現ライヴの映像を観た。昨年の11月に行われたこ
のコンサートのため、ハートランドからホーボー・キング・バン
ドまでに至る多数のバンド・メンバーが招集され、旧交を温めリ
ハーサルを重ねながら、当日の緊密な演奏へと結び付いていった。
オリジナル・リリースからは何と30年の歳月が流れている。そこ
にある種の懐かしさや感傷が混ざっていたとしても、誰がそれを
否定出来るだろうか。むしろ演奏家たちも聴衆たちも互いに今も
元気な姿でその場を分かち合えたことに感謝したい。

実際良く出来た名作アルバムだが、長い歳月を経て今の地点で歌
われることに多くのリスナーは価値を見出したはず。振り返れば
やや生意気で無鉄砲な青春群像を散りばめた『サムディ』の楽曲
群。ぼくにもその一つ一つが染み付いているが、大きなテーマと
して流れているのは無邪気な青年がいつしか現実に押し流され、
喪失を意識しているといった姿だ。佐野元春本人にとっても遅咲
きのデビューを経たのち、20代半ばにこの作品を作り上げた意味
はとてつもなく大きなものだったに違いない。そんな記念碑をか
つての切迫感とはまた少し違う寛容な歌と演奏で届けたことに、
この『名盤ライヴ』の意義があったと信じている。

もう遥か彼方の光景だ。自分にもこんな壊れやすい感情や心の襞
が残っていたのだという驚き。若さという特権(若者は誰もが自
分は防弾チョッキを着ていると思いがちだ)。バッドボーイズ系
の日本のロックンロールには求められなかったメロディの確かな
輪郭。それらを久し振りの『サムディ』アルバムやその日のライ
ヴ演奏とともに思い起こせる人たちは幸せだ。ステージの序盤、
佐野は「サムディのコンプリート・ライヴ?まさかこんな日が来
るとは思わなかったよ」とMCした。そこにはありがちな自嘲で
はなく、長い歳月に耐えながら導かれてきた幾つかの確かな輝き
があった。

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by obinborn | 2014-08-21 18:50 | rock'n roll | Comments(2)  

Commented by りーな at 2014-08-21 20:23 x
私は、行けなかったというより、行かないことを選択したので、やはり友人が録画してくれたものを観ました。

そして、小尾さんと同じように、元春が常日頃言っているように、ただ懐かしがるだけではない「何か」がそこにあり、観に行ったみんなはそれを確かに受け取って持ち帰ったのだろうな、と感じました。

プラス、ライブでの演奏には常に何らかのアレンジを加えている元春だからこそ、オリジナルバージョンに出来るだけ近い形で演奏することに意味があったのだと思いました。
Commented by obinborn at 2014-08-21 21:49
おっしゃられるように、当日はきっとみんな何かを持ち帰ったんだと思い
ます。日頃チャレンジングな姿勢で創作に向き合っている佐野さんだから
こそのスペシャルなライブ。録画とはいえじ〜んと来てしまいました。

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