佐野元春「詩人の恋」

例えば東日本大震災以降、世間に物申す的な直截なプロテスト
ソングが多く生まれた。そういった表現が好きな方には佐野
元春の現在がひょっとして物足りなく思えるのかもしれない。
つまり以前は「警告どおり・計画どおり」や「光」で原発事故
や9・11へとコミットしたのに何故今そういう歌を歌わないの
か?といった理屈である。しかしちょっと待って欲しい。元春
が21世紀になってから生み出した『THE SUN』『COYOTE』
そして『ZOOEY』といった傑作アルバムに注意深く耳を傾けて
みると、以前にも増して抽象化された歌詞と豊かで陰影ある音
のなかで彼がメッセージを発していることが理解できるのだ。
とくに震災後に作られた初めての作品『ZOOEY』に込められた
ものは深い。そのアルバムに収録された曲はどれもぼくを捉え
て離さないのだが、とくに雄大な「詩人の恋」には涙をこらえ
ることが出来なかった。具体的な怒りが抑制されているぶん、
さまざまなイメージの広がりがあり、その解釈は聞き手の数だ
けある。ぼくは最初中東の地で非業の死を遂げたフォトグラフ
ァーの山本美香さんを想像した。またある知人は病に臥した人
との最後の別れを感じたという。そしてぼくはある日ふと思っ
た。この「詩人の恋」という歌は震災で離ればなれになった、
あるいは永遠に会えなくなってしまった恋人たちの歌ではない
かと。歌の解釈に正解はないけれども、佐野元春というソング
ライターはリスナーそれぞれが抱く解釈に極めて寛大だ。研ぎ
澄まされた歌詞、光と影が交差するようなサウンドスケープ。
「詩人の恋」に込められた佐野さんの思いをぜひ感じてみてく
ださい。薄っぺらいプロテストソングよりも遥かに大きなもの
が、あなたの心にある一番大事なものを震わせると思うから。

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by obinborn | 2014-09-08 18:25 | one day i walk | Comments(0)  

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