佐野元春〜彼は私小説的ではないソングライティングを目指した

(佐野元春VISITORS:続き)小川洋子さんも番組で指摘されてい
た通り、佐野元春というソングライターが画期的だったのは、従
来の”私小説”的なフォーク歌手たちが陥っていた「自分は寂しい。
私は悲しい」といった自己憐憫的な世界と距離を置いていたから
だと思う。書かれた歌がたとえ一人称を用いていたとしても、そ
れは彼の単純な心情吐露ではなく、作者が歌を観察しながらスト
ーリーを紡いでいくような客観性があった。だからこそ逆に聞き
手はその”物語”に登場する彼や彼女に自分を投影出来た。VISITO
RSアルバムのなかでは、孤独感が際立つ「ブルーな日曜の朝」に
しても、怒りを表明した「君を汚したのは誰」にしても、個人の
感情はちょっとしたワン・フレーズだけに抑えられ、そのぶん映
像を喚起させる歌詞を吟味したり、単語の連なりをビートに乗せ
たりすることに細心の注意が払われている。
*      *      *

小川洋子さん「自分で小説を書きたいんだけれど、どうしたらいいかわからない状態の時に、文学の世界で突然現れたのが村上春樹で、音楽の世界では佐野元春だった。ふたりの先輩が言葉と音で作っている世界が、自分もなにか作りたいって気持ちを生み出してくれる力があった」

小川洋子さん「私小説とは全く違う場所にも小説があるってことを村上春樹が示したように、佐野さんも俺をわかってくれっていう詞じゃない、聴き手ファンを鏡にして自分を映す、そういうタイプの作り手っていうのはあんまりいなかったってことでしょうかね」

(番組中の小川さんの発言はAZAZさんのご協力を頂きました。あ
りがとうございます)

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by obinborn | 2014-09-22 08:28 | one day i walk | Comments(2)  

Commented by りーな at 2014-09-25 00:48 x
リツイートありがとうございました。

小川さん以外は音楽の専門家でしたから、より小川さんのお話が心に響いたというところがあるのかもしれません。

VISITORS以前の作品でも客観的に街のストーリーを紡いでいたのに、番組中にあったように「冷たい」「怖い」とファンから感じられたのは、やはりサウンド面や歌唱法がそれまでとはあまりにも違ったからでしょうか。

私は当時、自分でも不思議なくらい、それほどショックも受けなかったし、嫌いにもならなかった。
むしろ、コレは面白い、新しい元春だ!と嬉しくなって、自然に受け入れられました。
だから、友人にもカセットに録ってあげたりしたのだけれど、反応はイマイチでした(^^;)

しかし、当時のMRSで、批判的な投稿をあえて取り上げ、自分の気持ちを吐露するなんて、ほんとに元春らしい。

東北大震災のあとのMRSで、リスナーからのメッセージを紹介した時に、「お前ら金あるんだから歌うたってないでさっさと寄付しろ」というような内容のものをしれっと読み上げたのを思い出しました。


Commented by obinborn at 2014-09-25 07:17
ぼくも小川洋子さんのコメントが的確に元春像を捉えていると思いました。ホント「俺を解ってくれ!」っていう歌詞とは全然違うストーリー性が
衝撃でした。VISITORSを最初に聞いた時は流石にびっくりしましたが、
底辺に流れているものは従来と同じ(SUNDAY MORNING BLUEなど)だ
とも感じていました。それにしても「金あるんだから歌うたってないでさっさと寄付しろ」とはひどい意見ですね。と言うのも自分が出来ることを
やるのがベストという意味で、音楽家は音楽の表現で比喩的なメッセージを行うというのがぼくは一番好きだからです。そこら辺がZOOEYにもはっきり現われていますよね。

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