Lost In The Hamming Air

少年と私は公園でよくキャッチボールをした。毎日だいたい夕方に
なると彼は現れた。最初のうちはぎこちなかった少年の投球だが、
日に日に上達していったので私はいつの間にか捕手となった。そん
な日々は楽しかった。辺りが新緑の季節になる頃には彼の投球はま
すます冴え力が籠るようになった。何よりミットで受ける音が心地
よく弾けた。ある日少年は引っ越しを告げた。私も知らない遠い町
だった。それからの彼は制球が乱れたが、それでも私は左右上下に
球を受け続けた。しかし何かが確実に変化していった。それを何と
言ったらいいのだろうか。かつてはただ投げられていた球に邪気が
混ざり始め、ときにナイフのように私を刺したのだ。私が彼に話す
べきことはなかった。引っ越しはもう近くに迫っていた。最後に交
わされた30球ほどの投球でも、少年の邪気は残念ながら消えなかっ
た。それどころか球は大きく乱れ、私が後ろに逸らしてしまうこと
もしばしばだった。そんな球を拾うのは理不尽とさえ思ったが、別
れの時に彼は制球の乱れを謝った。それが精一杯の挨拶だった。次
の日から少年が公園に現れることは二度となかった。そうして私は
彼を失った。


[PR]

by obinborn | 2014-12-18 15:07 | one day i walk | Comments(0)  

<< 12月23日の中村まり 真のリベラルを探して >>