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12月24日の佐野元春&ザ・コヨーテ・バンド

この前終わった全国ツアーの余塵がまだ手足に残っていたのだろう。24日に六本木EXシアターで行われた佐野元春&ザ・コヨーテ・バンドの演奏には、そんな逞しさが漲っていた。ロッキン・クリスマスと冠され普段のステージよりは幾分寛いだ表情を見せた彼らだったが、コヨーテ・バンドで作った2枚のアルバム『COYOTE』と『ZOOEY』からの楽曲を各4曲ずつ堂々とセットリストの真ん中に据えるなど、2014年秋ツアーの収穫を物語るような場面が随所に溢れ返っていたことを頼もしく思う。オープニングこそ80年のデビュー・アルバムから「グッドタイムス&バッドタイムス」が選ばれ、「スターダスト・キッズ」と「ナイト・ライフ」へ連なっていくなど聞き手を若く無邪気だった季節へと連れ戻していったが、やはり一段と演奏に熱がこもるのは「黄金色の天使」や「呼吸」あるいは「世界は慈悲を待っている」や「虹をつかむ人」といった”経験の歌”たちだ。それは一夜のライブにして過去と現在とを自在に行き来することでもあったが、「ポーラスタア」や「ラ・ヴィータ・ベラ」といった最新ナンバーでザクザクと切り込んでいく深沼元昭と藤田顕によるギターの無鉄砲なまでの響きには、とくに心奪われた。

ところで昨日、ぼくは懐かしい友だちに会った。当時それほど話したわけではないけれど、会話を交わさなかったわけでもない。そんな友だちだ。いささかのぎこちなさはあったが、ぼくたちは久し振りに語り合いながら話は夜空を見守る星と月にまで及んだ。そんな彼のために今夜演奏された「ポーラスタア」があればいいと思った。そして今日は演奏されなかったけれども、21世紀になってから佐野元春が作った誓いと再会の物語「月夜を往け」が、彼に届けばいいなと思った。

佐野元春は一体何を歌に託し、どんなことと戦ってきたのだろう。そんなことをぼくは今も考える。彼のような生きた言葉で街を描写し、世代を代弁した人はそれまでいなかった。彼のような情熱を携えながらシニシズム(冷笑主義)に陥るまいとロックした人はこれまでいなかった。だから佐野元春を聞いた帰り道、ぼくは自分のことを振り返るのと同じくらい、友だちだった彼や彼女たちが今日もシニシズムという毒に冒されていないことを願う。

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by obinborn | 2014-12-25 01:06 | rock'n roll | Comments(0)  

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