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ボブ・ディラン 『SHADOWS IN THE NIGHT』

ボブ・ディランの新しいアルバムはスタンダード・ソング集になる
らしいよという噂から始まり、今それがフランク・シナトラに因ん
だ曲ばかりを歌ったものとして届けられると、ちょっと目眩がして
しまう。予想出来なかった展開というわけではない。21世紀に入って         からのディランは自分の人生を総まとめするかのように、彼の栄
養となったブルーズやゴスペルに敬意を払ったアルバムを作り、自
分の独創性を発露するというよりはルーツ・ライクな姿勢に徹して
きたから、その一環としてシナトラのようなポピュラー・ソングを
歌っても不思議ではなかった。いわば本作は広範なアメリカ音楽に
対するディランの感謝のひとつであり、少し前にクリスマス・アル
バムを作った延長のようなものだろう。

ただ今から半世紀前の1965年にディランがシナトラを歌う日が来る
とは誰も予想出来なかったと思う。当時台頭してきたフォークやロ
ックという音楽はいわば従来のポップスに対する反逆児であり、デ
ィランが『セルフ・ポートレイト』や『ディラン』といった自分の
アルバムでエヴァリー・ブラザーズやエルヴィス・プレスリーのバ
ラードを取り上げただけでも70年代には随分非難された記憶が筆者
にはある。しかしながら日本に限っても、岡林信康が美空ひばりへ
の共感を示し、吉田拓郎の「襟裳岬」を森進一が大ヒットさせ、は
っぴいえんど解散後の松本隆は歌謡曲の作詞家としてビッグセラー
を飛ばす。今や佐野元春も雪村いづみとコラボレイトして素晴しい
歌を共にしたり、雪村の過去の音源を掘り起こし監修するような時
代。狭義の音楽ジャンルはどんどん溶解しつつある。

そうした幾つかの音楽勢力地図を振り返ってみると今のディランが
ポピュラー・ソングを歌う心持ちが自ずと見えてくる。ぼくが中学
生となり物心が付き始めロックに目覚めた頃、両親が聞いていたク
ラシックや歌謡曲は唾棄すべきものだった。フォークやロックこそ
が自分の気持ちを代弁してくれる尊い兄貴のような存在であったか
ら。しかしながらそんなアティチュードが長続きするわけもなかっ
た。とくに自分がかつて反抗していた頃の両親の年齢を超えたり、
そのうちの一人が今やもう永遠に語ることも出来ないとなれば、な
おさらだ。だからぼくはディランの『SHADOWS IN THE NIGHT』
を愛おしいホーム〜家庭のような作品として聞いている。

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by obinborn | 2015-02-14 00:39 | Comments(0)  

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