Van Morrison 『No Guru.No Method.No Teacher』

80年代のヴァン・モリソンを振り返ってみると、前半が
宗教色が極めて濃厚な時期で、後半になると再び意欲的
に音楽へ取り組む様子が伺えます。ムーヴィング・ハーツ
のメンバーを迎えた84年の『A SENSE OF WONDER』は
その発端となるアルバムでしたが、続いて86年にリリース
された『NO GURU, NO METHOD.NO TEACHER』では、
ドリーム・アカデミーのケイト・セイント・ジョンを迎え
るなど、アイルランド音楽へ回帰する姿勢を見せている点
が興味深いです。やがてチーフタンズとともに傑作『IRIS
H HEARTBEAT』(88年)を生み出すヴァンの道のりの一
歩は、間違いなくこの『NO GURU〜』にあったのでした。

全体に穏やかなサウンドのなか、ときに深い陰影が加わっ
てくる点がこの時期の特徴です。やはり宗教的な経験と自
身の年齢的な成熟の両方を感じずにはいられません。アル
バムがこれまでを回想するGOT TO GO BACKから始まる
こともそうした印象を強めています。歌詞には「かつて俺
は別の国で暮らしていた」というフレーズが出てきます。
これはむろんアメリカ(とくにサンフランシスコ)のこと
でしょうが、そこを離れ故郷に帰っていく様子がケイト・
セイント・ジョンの吹くオーボエによって否が応でも高
まります。またアルバム後半には自身を流浪者に譬えたO
NE IRISH ROVERが置かれるなど、アイルランドに対する
望郷の念を強く感じさせます。

最大の聞きものはやはりIN THE GARDENでしょうか。そ
こではアルバム表題に一部が引用された「導師はいない。
教義もなく教師もいない。あるのはきみとぼくと大いなる
自然だけだ」という哲学的な歌詞が力強く歌われていきま
す。彼のプライヴェイトな信仰にはあまり関心がありませ
んが、この曲からは宗教から解放されたヴァンの”気付き”
が確かな鼓動とともに聞こえてくるようです。ジョン・レ
ノンのGODもある意味”目覚め”の歌でしたが、こうしたテ
ーマを扱うようになったことに、ティーンエイジの王国か
ら始まったロック音楽の到達点を感じずにはいられません。
なおこのIN THE GARDENは以降しばらくヴァンのライヴ
活動で頻繁に登場し、ステージ終盤を盛り上げる重要な曲
へと成長していきます。

このアルバムが発売された86年当時といえば、世代交代が
進み、またロックがより露骨に商業化していった最中でし
た。そうした動きに目もくれず、あるいは時に失望しなが
らも自分の道を信じ、こうしたスピリチュアルで静謐な音
楽を作ったヴァン・モリソンに感謝せずにはいられません。
私にとっても「世の中の流行などどうでもいい」という命
題を与えてくれた大切な作品です。

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by obinborn | 2015-04-11 17:13 | one day i walk | Comments(0)  

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